姜氏にかけられた疑い
息子の崇善君(スンソングン)を王にしたいという野望を抱いていた趙氏だが、年を重ねてもまともに会話ができない息子を見て、その野望を諦めなければならなくなった。それでも自分の力を広く知らしめたいと願う趙氏にとって、一番邪魔だったのが姜氏だ。姜氏の息子から後継者の座を剥奪することに成功した趙氏は、さらに姜氏を標的として罠を仕組んだ。
その際に趙氏は、愛蘭(エラン)という有能な女官を帰国後の姜氏の監視役として送り込んだ。愛蘭は姜氏の身の回りを世話しながら、ひそかに様子をうかがっていた。
昭顕は、清にいるときに錦繍(きんしゅう/美しい織物)を購入していたが、彼が世を去った後、災いをもたらすものとして処分されることになった。
姜氏から錦繍の処分を命じられた女官の愛蘭は、集めた錦繍の数を自分の部屋で確認しようとした。そのとき、偶然を装って愛蘭の部屋を訪ねてきた趙氏が、あろうことにその部屋の中で倒れてしまう。
趙氏が祟(たた)りにあって倒れたという噂が宮中に広まり、仁祖の耳にも届いた。愛蘭は、激怒した仁祖によって拷問にかけられて遠島に流されてしまう。それにより、愛蘭が呪詛にかかわっていたことが取り沙汰され、彼女が仕えていた姜氏に疑いが及んだ。さらに、姜氏にとって不都合な出来事が起こる。後継者の凰林と正妻の張(チャン)氏の間に生まれた娘が急死してしまったのだ。
仁祖は、「姜氏が私と張氏のことを呪詛しているに違いありません」という趙氏の言葉を信じて、姜氏が最も信頼していた女官の継還(ケファン)と礼香(イェヒャン)を拷問にかけた。2人のうち、特に厳しい拷問を受けたのが継還だ。彼女は、姜氏を監視させるために送り込んだ愛蘭を仲間に引き入れるほど、人の心をつかむのが巧みだった。そのため、趙氏は、継還を白状させれば姜氏が呪詛していた証拠がつかめると思っていた。
しかし、継還は最後まで口を割らず、1645年9月10日に世を去った。もう1人の礼香も同様に拷問を受けて亡くなっている。
姜氏が最も信頼する女官の2人が否認したまま亡くなっても、趙氏は何とか呪詛の証拠を見つけようとした。呪詛を裏付ける物証は確かに出てきたが、それが最初から埋まっていたのか、趙氏の配下がわざと埋めたのかはわからない。
再び姜氏に仕える女官たちが捕えられたが、誰一人として白状しなかった。趙氏が、それでも姜氏に罪をなすりつけたいと思っていたそのときに、ある大きな疑惑事件が起こった。(ページ3に続く)