日韓のトップアイドルグループ「東方神起」。10年前に5人組としてデビューしたが、現在は、ユンホとチャンミンの2人組で活動中だ。今年のカムバック直前まで、チャンミンはバラエティー番組の司会を務めていた。
その番組は、大人気スポーツバラエティー番組「ホドン&チャンミンの芸・体・能〜めざせ! ご当地スポーツ王」である。番組名にも出るが、「東方神起」チャンミンのパートナは、芸人カン・ホドン。巨漢の芸人であり、売れっ子の司会者、レストラン・チェーンの経営者でもある。彼は20年前、韓国相撲の横綱であった。しかも、韓国相撲「シルム」の体重無制限級の大会で5回も優勝し、優勝回数で数えると、歴代2位の伝説の力士である。
日本で、大相撲の第66代横綱の若乃花(花田 虎上)が相撲界の指導者の道を捨て、芸能界入りした事と似ている。外食産業に関心を持ち、レストラン・チェーンを経営していた事までも似ている。
相撲は古代から伝わってきている日本伝統のスポーツでもあるが、韓国、中国北部、モンゴル、トルコなど、いわゆる「アルタイ語族」に共通しているスポーツでもある。当然、この「相撲文化圏」出身の力士は日本の大相撲でも実力を発揮してきた。
戦後の昭和時代、敗戦のトラウマから日本社会を元気付け、その後の高度成長期の日本社会において最高のエンターテインメントになっていたのは、プロレスだった。「日本プロレス界の父」と言われる「力道山」。植民地時代の韓国で生まれた彼は、昭和15年、キム・シンラクとして韓国の相撲大会で優勝した。その後、日本の大相撲の横綱を夢見て来日、養子入りで「百田 光浩」になる。昭和20年代には大相撲界で好成績を残し、昭和30年代にはプロレスラー「力道山」として大活躍した訳だ。その後も韓国出身、または韓国系の日本人力士の活躍は続いていた。
先日、大相撲の横綱審議委員会は春場所で14勝1敗の成績で初優勝を果たしたモンゴル出身の大関、鶴竜(本名:マンガラジャラブ・アナンダ、井筒部屋)を満場一致で横綱に推薦することを決定した。これで、モンゴル出身の横綱は朝青龍、白鵬、日馬富士に続いて4人目となる。
13年ぶりとなる3横綱時代で盛り上がる一方、日本人横綱の不在を嘆く声も多い。元横綱の北の富士氏は「これはひとえに日本人力士のふがいなさ、指導者の責任。(3横綱に)対抗する日本人力士を出さないと、国技とは名ばかりになってしまう」と危機感をあらわにした。
確か、2003年初場所で貴乃花(現・貴乃花親方)が引退して以来、11年間も日本人横綱の不在が続いている。この「ジャパニーズ・ヒーロー」の不在に角界の不祥事なども加わり、いつの間にか「相撲はお年寄りのスポーツ」というイメージが定着してしまった。
こうなったら、「国技」や「日本のプライド」にこだわることを捨て、相撲をもっとグローバルなスポーツとして育てることを考えたほうがいいかもしれない。実際に、海外では相撲選手になりたくても、日本のしきたりへの抵抗感や日本語能力の壁にぶつかって角界入りを諦める若い人材たちも多いようだ。なお、角界側では「外国人選手は一部屋に一人」という制限を設けている。
日本の相撲は、「韓国相撲」(シルム)、「モンゴル相撲」や「中国相撲」などと比べれば、とてもエンターテインメント性の高いスポーツだ。200キロを超す巨漢たちが四股で足を高々と上げるようなダイナミックで迫力のあるパフォーマンス、行司の異様な煽り声、座布団が飛び交う客席など、相撲でしか味わえない趣がある。
1980年代末から1990年代にかけて世界的にヒットしたCAPCOM社のゲーム「ストリートファイター(Street Fighter)」に登場した「Honda」というお相撲さんキャラクターの影響もあり、世界中から注目を集めた時期もあった。
世界に通用する可能性を秘めているこの「相撲」が「お年寄りの娯楽」に甘んずるのは実にもったいないことだ。例えば、イギリスで生まれたサッカーは人種、文化、言語、国籍の壁を超えて誰もが簡単に楽しめるというシンプルさで、今では人類を代表するグローバルなスポーツに成長した。もちろん、プロのチームには外国人選手の数を制限する場合もあるが、そこまで厳しくはない。
話が戻るが、韓国相撲「シルム」の状況も日本と同じようだ。1990年代以降はその人気にも陰りが出始め、今ではすっかりマイナースポーツになってしまった。どんなに優れたスポーツでも、現代においてはスポンサー企業とカッチリ組んだり、グローバル化を図ったりしない限り、その地位は維持し難いのだ。「グローバル化」を前提に考えれば、やり方はいくらでもある。問題は関係者たちの意識変化かもしれない。
「アルタイ語族」のトルコやレスリング発祥地の影響もあったのか、東ヨーロッパの諸国からも、優れた力士が出現したりする。豊かになりつつある東南アジアの諸国にも、エンターテインメントに満ちたスポーツとして、相撲の需要があるようだ。将来、日韓の相撲界には、もっと国際色の豊かな横綱が押し寄せるかもしれない。
今、日韓両国の伝統スポーツ相撲は、「国技」のあり方が問われている。