生母の言葉の重み
英祖が言った“映嬪”とは、思悼世子の生母の映嬪・李(イ)氏のことある。英祖の側室で、思悼世子の他に3人の王女を産んでいる。
<生母が、こともあろうに息子の乱行を訴えてくるとは……>
重臣たちも映嬪・李氏の真意をはかりかねたが、英祖が思悼世子の自決を決意した背景には、思悼世子の生母の言葉が大きな影響を与えていたのである。
たまらずに、重臣の1人が進み出た。
「おそれながら殿下におかれましては、王宮の奥にいる1人の女性の言葉によって、国本(クッポン/王の後継者のこと)を動揺させようとなさるのですか」
この問い掛けは、英祖のそばにいた多くの人たちの心にも響いた。一同がうなずく中で、英祖だけが怒りを増幅させて思悼世子をにらみつけて刑の執行を迫った。
もはや誰も英祖を制止することはできなかった。彼は息子が自決しないと見なすと、米びつをもってこさせた。
「お願いです。命だけは助けてください」
思悼世子は最後に哀願したが、英祖はそれを聞かずに息子を米びつに閉じ込めさせた。そばにいた誰もが、その異常なやり方に涙を流さざるをえなかった。(ページ3に続く)