「コラム」『ミス・ワイフ』朋道佳のイチオシ9

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「こんなソン・スンホン、見たことない!」。これがこの作品を見た第一印象でした。オム・ジョンファのコメディタッチの演技と“普通すぎる”ソン・スンホンの抑えた演技力が最高の化学反応を起こした映画『ミス・ワイフ』。観る人の心をほんわか温かいものにしてくれます。

 

敏腕弁護士が冴えない主婦に!

不慮の事故で生死の境を彷徨っていた敏腕弁護士のヨヌ(オム・ジョンファ)は、怪しい男(キム・サンホ)から、「正体を明かさずに1カ月間他人の人生を生きれば、再び本来の人生に戻してやる」と言われます。

朝、目を覚ましたヨヌは2人の子持ちの冴えない主婦の姿になっていました。そして目の前にはイケメン過ぎる夫ソンファン(ソン・スンホン)の姿が……。

最初は戸惑うヨヌも次第に家族と心を通わせていくようになるのですが、それもひと筋縄ではいきません。

小遣いばかり要求する反抗期の娘と、まだ手の掛かる幼稚園児の息子。本来の人生ではお金と出世にしか興味のなかったヨヌが、節約のために内職までする平凡な主婦に変わり、パニックになっている姿が本当に笑えます。

 

現代の格差社会を批判

母親の突然の変わりように戸惑う息子ハル(チョン・ジフン)が友達から「うちのママもコーネンキなんだよ」という言葉を聞き、ありったけの小銭を握りしめてコーネンキの薬を買いに行く姿には、あまりの可愛さに胸がキュンとなります。

反抗期の娘ハヌル(ソ・シネ)も、ヨヌとの“母娘あるある”のような掛け合いで楽しませてくれます。ソ・シネは2007年に韓国で大ヒットしたドラマでチャン・ヒョクとコン・ヒョジン主演の『ありがとうございます』で、エイズに感染した子供ボミを熱演しましたし、日本でも多くの韓国ドラマファンの心に残っている子役の1人ですね。

この作品は、真逆の人生を生きるという荒唐無稽なストーリーではありますが、現代の韓国の格差社会を痛烈に批判しているところがヒットした要因かもしれません。平凡な主婦の姿になったヨヌが敏腕弁護士の片鱗を時折見せるのも面白く、小気味よいストーリーにぐいぐいと引き込まれていきます。

カン・ヒョジン監督はオム・ジョンファを「俳優は大勢いるが、物語をリードできる女優は多くない」と絶賛しています。確かに、オム・ジョンファ主演の作品は安定感があり、安心して見ていられるような気がします。この作品においても、彼女の計り知れない表現力と長年培ってきた女優としての底力を存分に堪能することができます。

 

平凡な暮らしこそが幸せ

この作品で特筆すべきは、抑えた演技で脇役を演じたソン・スンホンの姿ではないでしょうか。

胸からネームプレートを下げ、同僚と屋上で缶コーヒーを飲む区役所職員。同僚の吸いかけのタバコを奪って、「この節約で息子が使うクレヨンのクオリティが上がるんだよ」と、なんとも涙ぐましい普通のパパぶりが全開のソン・スンホンなんて、果たして想像できますか?

クール、ワイルド、セクシー、御曹司……そんな形容詞は今回のソン・スンホンにはまったく似合わないのです。

セクシーなソン・スンホンを堪能したければ『情愛中毒』をぜひご覧いただくとして、今回は普通すぎるソン・スンホンをたっぷり味わってみてはいかがでしょうか。

妻と家族を何よりも大切に思っている愛妻家を演じたソン・スンホンの受け身の演技がこの作品の大きな魅力になっています。

ヨヌが、お金の本当の価値や家族の愛を知り、人にとって本当に大切なものは何なのかに気づく。涙と笑いで教えてくれるこの作品は二度、三度と繰り返し見たくなるような不思議な魅力に溢れています。

平凡な暮らしこそがどんなに幸せなことなのか。この作品を見て改めて感じることができるでしょう。

そして映画『ミス・ワイフ』は、「もしも、うちの夫がソン・スンホンだったら!?」という、嬉しい夢を見させてくれる作品でもあります。124分という上映時間があっという間に過ぎるほど心から楽しめる映画ですので、ぜひぜひご覧になってくださいね。

 

文=朋 道佳(とも みちか)

朋 道佳さんのblog「本日も幸せ日和」はこちらhttp://ameblo.jp/tomo-m358/

2016.09.13