第2回/イ・ヨンエ(後編)
2003年に『宮廷女官 チャングムの誓い』の主演が決まったイ・ヨンエ。テレビドラマに戻るのは、『火花』以来で3年ぶりのことだった。彼女は、「ドラマを通して、我が国の歴史に埋もれていた堂々たる女性像を見せたい」と力強く抱負を語った。とはいえ、久しぶりの時代劇はイ・ヨンエにかなりの重圧を与えた。
奥が深い宮廷料理
イ・ヨンエは率直に語った。
「緊張しますね。俳優が時代劇に出ると、演技の面で多くのことを教わると聞きますが、それは本当ですね。ありのままの演技を勉強したいと思えば、時代劇に出てみたいという欲がかなり出てくると思います。個人的には、時代劇は演劇のような感じです」
イ・ビョンフン監督からは、新人のようにセリフのアドバイスも受けている。
「このドラマに出演しながら、すべてのことに対して再び新しく始める気分です。心構えだけでなく、演技の基本的な姿勢から学びたいですね。惰性やマンネリを打破して新人のつもりで始めます」
その言葉通り、イ・ヨンエは演技のためなら、どんな困難もいとわない粘り強さを発揮した。
チャングム役を演じる前に、宮廷料理に詳しくなることの必要性を強く感じ、宮廷料理研究院で「人間国宝」級の名人から直接習った。
この体験は、韓国料理そのものの捉え方が一変するほどインパクトが大きかった。
「たとえば神仙炉(シンソルロ)の場合も、そのまま材料を入れるのではなく、色彩や角度によってどう見えるかを吟味しながら一つ一つの構成を考えることを習いました。宮廷料理を見れば、その国の状況や時代背景を知ることができると思います」
この言葉を見ても、チャングムという役がイ・ヨンエにもたらしたものが大きかったことがわかる。
名実ともにトップ女優に成長
朝鮮王朝時代の宮廷に関する書籍をよみこなし、当時の料理を学び、長いセリフをからだにしみこませた。
こうした努力が実を結び、『宮廷女官 チャングムの誓い』は視聴率50%以上という大ヒットを記録した。
イ・ヨンエはMBC演技大賞を堂々と受賞した。名実ともに、韓国のトップ女優となったのである。
そんな彼女を、『JSA』のパク・チャヌク監督はまぶしく見つめた。
「かつて『JSA』を撮ったときは、イ・ヨンエの深く掘り下げた演技をうまく引き出すことができなかった。今度こそ……」
パク・チャヌク監督の熱心な誘いを受け、イ・ヨンエは『親切なクムジャさん』に主演した。
この作品の中では、20歳のときに誘拐殺人事件で逮捕されたイ・クムジャという女性を演じている。
刑務所では天使のような優しさをもった女性と評されたクムジャは、13年の刑期を終えて出所すると一転して復讐の鬼と化す。このあたりの執念深さをイ・ヨンエは見事に演じきった。
久しぶりの復帰作
『親切なクムジャさん』の撮影では、監督が演技のOKを出しても、イ・ヨンエ自身が懇願して何度も演技をやり直した。
しまいには、スタッフがイ・ヨンエのあまりの熱心さに嫌気がさすほどだった。それでも彼女は自分の信念を貫いた。
CMタレントから出発して、韓国を代表する女優になったイ・ヨンエ。困難を乗り越えてチャングムを演じきったことが、彼女の揺るぎない自信の裏付けになっていた。
それだけに、そのまま女優人生を突っ走ると思えたのだが、イ・ヨンエは『親切なクムジャさん』を最後に女優を休業し、2009年に実業家と結婚。2011年には男の子と女の子の双子を出産し、育児に入った。
その後、『宮廷女官 チャングムの誓い』の続編の制作が企画されたが、イ・ヨンエはその主演を断ってしまった。さぞかし熟慮した結果だろうが、彼女の心の中ではチャングムの物語が完結していたのかもしれない。
そのまま育児に専念するのかと思われたが、イ・ヨンエは再び女優に復帰する決断をして、昨年の秋から『師任堂(サイムダン)、色の日記』の撮影を続け、ようやく今秋に放送の運びとなった。
どんな演技を見せてくれるのか。期待はふくらむ一方だ。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
コラム提供:ロコレ
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