「コラム」ペ・ヨンジュン 過去への旅路(第7回)

p2_9

第7回 大ケガを乗り越えて

『愛の挨拶』で一躍人気俳優となったペ・ヨンジュン。単発ドラマの『海風』を経て、若者たちの野望と友情を赤裸々に描いた『若者のひなた』に出演。ベテラン俳優に囲まれ、緊張して夜も眠れないほどの重圧の中で、必死に自分の役割をこなしきった。続いて、イ・ヨンエと共演した『パパ』で、まだ23歳なのに、離婚して子供を育てる役に扮した。10歳くらい上の俳優が演じるような役に果敢に挑戦したのだ。しかし、激務の撮影で疲労困憊となり入院を余儀なくされたが、話に尾ひれが付いて引退騒動まで起こってしまった。その後休養を取り、今度はタフガイのイメージを加えて『初恋』に出演。メガネをはずし、たくましい姿を披露した。

自分の至らなさを痛感

ペ・ヨンジュンの連続ドラマ出演4作目となった『初恋』は、65・8%という歴代最高視聴率を記録して大成功のうちに終了した。

けれど、ペ・ヨンジュンは単純に喜んでばかりはいられなかった。彼は「惜しい気持ちが強い」と正直に告白する。

「空前の視聴率を記録して私に多大な人気を与えてくれたドラマですが、同時に悔しさが残る作品でした。8カ月間、66回の放送分の『初恋』を撮り終えて、自分の演技力不足からひどい挫折感を経験しなければならなかったのです」

制作関係者も視聴者も、『初恋』におけるペ・ヨンジュンの演技について、その成長を十分に認めていたのだが、当の本人は自分の至らなさを痛感して反省ばかりしていた。

他人から見れば「なぜ、そこまで自分を追い込むのか」と思えるが、それこそがペ・ヨンジュンである。

彼は厳しく自分を見つめ、小さな成功で決して満足したくはなかった。

とはいえ、落ち込んでばかりもいられない。演技力をもっと向上させたい、という強い意欲をもってペ・ヨンジュンは新たな道に進んだ。

明日に向かって走る

1997年4月28日付け「イルガン・スポーツ」紙が詳しく報道している。

「約8カ月間も撮影に没頭したドラマ『初恋』を終えたペ・ヨンジュンは、虚脱感を克服するために本格的な体力強化に突入した。彼のスケジュールを見れば、勉強で詰まった小学生の計画表のように殺人的だ。何も知らない人が見れば、『ペ・ヨンジュンさん、どんな組織に入っているのですか?』と聞いてしまうほどだ。目を開ければ30分ほどジョギングをして自宅近隣の剣道場で汗を流す。朝食を食べてから、『演技者は何でも出来なければならない』という信念に基づいてゴルフ練習場へ足を運ぶ。そしてジャズダンスの個人レッスンを受け、武術ジムで鍛え、フィットネスクラブで1日を終える強行軍だ。彼は言う「『初恋』を終えて本当に虚ろですが、チャヌは記憶の中に埋めておいて、明日に向かって走らなければなりません」と……。

この記事の通り、明日に向かって意欲満々だったペ・ヨンジュンだが、運悪く大きなケガをしてしまう。

それは、1997年7月18日の出来事だった。

いつも通っている武術ジムでトレーニングをしたあと、ペ・ヨンジュンは急に宙返りがしたくなった。ジャンプして空中で一回転すると、周囲から拍手が起きるほど称賛されたのだが……。

「もう一回」の声に後押しされて、再び宙返りしたときに、着地に失敗して右足を負傷してしまった。

p3_7000

読書に夢中になる

自分の運動神経への過信があったのかもしれない。それが、あだになった。

精密検査の結果、右足首の骨折で全治3カ月の重傷と診断された。

右足には大きなギブスが付けられ、身動きできない生活が始まった。

『初恋』終了後、ペ・ヨンジュンは体力トレーニングを強化して、せっかく引き締まった肉体に仕上げたのに、それも台なしになってしまった。それでも、寝込みながら木刀を振る、というのが、いかにもペ・ヨンジュンらしい。歩けないが、腕は自由になるというわけだ。

しかし、それも限界がある。ペ・ヨンジュンは観念して、ビデオ鑑賞と読書にほとんどの時間をさくようになった。

「それまでは体作りに力を注いでいましたが、ケガでむしろ余裕を見つけました。これまで見られなかった映画、読めなかった本を今こそ楽しんでいます。それに比べると、からだが動けないのは大したことではありません」

それまでのペ・ヨンジュンの人生は、前を向いてひたすら突っ走るものだった。並外れた向上心を持つ彼は、休む間もなく動くことで何かを得ようと思っていた。

けれど、ケガによってベッド生活を余儀なくされ、少し考えが変わってきた。何よりも、映画や本によって得られる教養が、彼に新しい世界を示してくれた。特に、古代エジプトのファラオの一代記を描いた書籍を読んだときは、歴史の奥深さに感動を覚えたほどだった。

演技の向上に必要なこと

もともと、ペ・ヨンジュンは知性派の俳優として知られていた。たとえば、ある新聞ではこう論評されている。

「ペ・ヨンジュンを代表する魅力は、知性美である。優雅な容姿とシャープなイメージをトレードマークにしている。そして柔らかい。笑うときに弧線を描く目もとほど、調和しているものはないだろう。CM関係者たちも驚くくらい、魅力的な微笑みをもっている。そうした知性美や柔らかさの他にも、男性美であふれている。180センチ、76キロの堂々たる体格は、『私のからだは脂肪だけではありませんよ』という本人のジョークのように、ボリュームのある筋肉で覆われている。見るからに顔と体はまったく一致しないが、そんなアンバランスさがむしろ彼の魅力をさらに際立たせている」

知性美と男性美・・この二つともペ・ヨンジュンの魅力だと論じている。そういう指摘が的を得ているのは確かだが、ペ・ヨンジュンはケガの療養中に数多くの本を読破する中で、一層教養を高める必要性を感じた。演技に深みをもたらすのが、知性であり教養であると実感したからである。

<演技の向上に必要なことはすべてやり遂げたい>

そういう信念を持ち、以降のペ・ヨンジュンは時事雑誌から詩集まで幅広く読みこなす読書家になった。

その原点はやはり、ケガの間に身につけた読書習慣である。

文=康 熙奉(カン ヒボン)
コラム提供:ロコレ
http://syukakusha.com/

2016.05.15