「コラム」<前編>なぜ韓国ドラマには俳優の重複出演が多いのか

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韓国ドラマを見ていると、いくつものドラマに同じ俳優がひんぱんに出演していることがわかる。ときには、同じ日にテレビ局の違う複数のドラマに出演する俳優もいるほどだ。なぜ韓国では、俳優が重複してドラマに出演するのだろうか。

多いのはベテラン陣

韓国には、「キョプチギ・チュリョン」という言葉がある。日本語に訳すと、「重複出演」となる。

日本では重複出演という言葉自体、あまり聴き慣れない言葉だが、韓国人はこの言葉だけですべての意味を理解できる。それほど、韓国ドラマでは重複出演が当たり前になっているのだ。

しかも、この重複出演が、同じ時期に放送されている複数のドラマで行なわれることも珍しくない。ひどいときには、まったく同じ曜日の同じ時間帯で、違うテレビ局のドラマに同じ俳優が出演していることもある。

「チャンネルを回したら、同じ俳優がまた出てきた」

日本では想像もできない現象が、韓国では日常茶飯事になっている。しかも重複出演する俳優は、実に幅広い層に広がっているのだ。

特に、重複出演の割合が圧倒的に高いのは、「中年俳優」と呼ばれるベテラン俳優たちだ。その理由のひとつに、韓国の歴史的な背景がある。

かつては俳優の地位が低かった

1980年代後半になってようやく民主化が実現した韓国では、娯楽産業であるテレビドラマや映画の俳優に対する社会的地位はずっと低いままだった。そのため報酬も少なく、俳優業だけで食べていけない人たちが、副業を掛け持ちすることも珍しくなかった。決して恵まれているとは言えない職業だっただけに、初めから敬遠する人や志があっても途中で辞めてしまう人もいた。

苦しい時代を生き抜いた人たちが、現在ではベテラン俳優として韓国ドラマを支えている。報酬も昔に比べれば格段によくなったが、ドラマの数が増えた今も、ベテラン俳優たちの絶対数は足りていない。

その一方で、現在ではキャスティングの偏重も重複出演に拍車をかけている。

主役を演じるスターたちは、何よりもまず人気の高さやイメージのよさが問われる。それに対し、主役の引き立て役として助演を任されるベテラン俳優たちに求められるのは、質の高い安定した演技力だ。ドラマ全体の雰囲気を引き締めるベテラン俳優の演技力が低いと、ドラマそのものが陳腐なものとなり、すぐに視聴者からそっぽを向かれてしまうからだ。

結果的に、テレビ局もドラマ制作会社も、過去のドラマに起用して評価の高かったベテラン俳優たちを何度も使おうとする。そして気がつけば、限られたベテラン俳優ばかりが、助演として視聴者の前に姿を現すことになる。

特定の俳優に集中する現状

限られたベテラン俳優にドラマのオファーが集中することは、俳優本人にも大きな負担がかかる。

そんな中でも「重複出演の女王」と言えるのがキム・ヘスクである。彼女の場合、3本のドラマを同時並行で撮影するという離れ技をやってのけたことがある。

韓国では放送ギリギリまで撮影を続けることも珍しくなく、1本のドラマを演じきるのにも相当の体力を使う。

それを3本同時にこなすのだから凄い。しかし、そんな過酷なスケジュールでは、いつ過労で倒れてしまうかもわからない。

主役を演じるスターの場合、さすがに同じ曜日の同じ時間に複数のドラマに出演することはないが、自分が出演しているドラマの放送が終わる前に、別の出演ドラマが始まってしまうこともある。

また、スターは映画にも出演することが多いが、映画は撮影の進捗状況により予定していた公開日が変更になることもある。

そのため、「ドラマと映画」というようにメディアを変えて同時出演してしまうことも生じてしまう。

(後編に続く)

文=「ロコレ」編集部

コラム提供:ロコレ
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2016.05.08