「コラム」名優が火をつけたチャン・グンソクの俳優魂

『テバク』の第9話を見ていて驚いた。領議政(ヨンイジョン/朝鮮王朝時代の総理大臣)の金昌集(キム・チャンジプ)の役で、新たにイ・ジェヨンがドラマに加わってきたからだ。脇役ばかりだが、このイ・ジェヨンはストーリーに緊張感をもたらす恐るべき名優である。

写真/韓国SBS『テバク』公式サイトより

写真/韓国SBS『テバク』公式サイトより

心地よい緊張感
イ・ジェヨンが画面に登場するだけで、「何か大きな動きが起こるはず」とワクワクする。事実、国王の後継者争いに重要な役割を果たす金昌集が出てきてから、『テバク』はますます面白くなってきた。

それにしても、『テバク』はベテランの男優陣の充実度が凄い。

圧倒的な存在感を見せているのがチェ・ミンスだ。彼は19代王・粛宗(スクチョン)

に扮しているが、声の抑揚といい表情の奥深さといい、『テバク』をピリリと引き締める役割を十分に果たしている。

公式サイトの視聴者掲示板にはチェ・ミンスを称賛する意見があふれているが、それも当然のことだろう。

これほどの俳優を重要な粛宗の役に起用できたことが、『テバク』にとって本当に幸運だった。

そして、物語全体を支配している李麟佐(イ・インジャ)に扮しているのがチョン・グァンリョルである。

人間のペーソスを演じさせたら当代随一の俳優だが、今回は物語を自在に操る謎の怪人物になりきって、絶妙の間合いを持った演技を見せている。

 

演技に迷いがなくなった

テギルの師匠のキム・チェゴンをアン・ギルガンが演じた(写真/韓国SBS『テバク』公式サイトより)

テギルの師匠のキム・チェゴンをアン・ギルガンが演じた(写真/韓国SBS『テバク』公式サイトより)

さらに、テギルの師匠となるキム・チェゴンに扮しているのがアン・ギルガンだ。窮地のテギルを助けようとしたとき、敵に対して「いっぺんにかかってこい!」とタンカを切るところは迫力満点だった。

いかにも「テギルを鍛える師匠として本当にふさわしい」と思わせる底知れぬ強さを備えていた。

こうした名人級の俳優たちに加わって、第9話からは満を持してイ・ジェヨンも登場するに至った。ベテラン俳優たちの名演技をたっぷりと見られるという意味で、『テバク』はなんとも贅沢な時代劇になってきた。

もちろん、主人公のチャン・グンソクも1話ごとに演技がとても良くなっている。演じているテギルが未熟な若者だったときは、本人も「こういう演じ方でいいのか」と戸惑っている部分もあったようだが、キム・チェゴンに弟子入りして修業に励むようになってから、チャン・グンソク自身にも迷いがなくなった。

間違いなく、チャン・グンソクは名優たちに大いに刺激された。それはいい方向へのベクトルとなった。その結果、彼の演技に突き抜けていくような勢いが現れた。

公式サイトの視聴者掲示板に「チャン・グンソクの目の演技がいい」と称賛されるのも当然かもしれない。

 

生まれ変わる決意

2006年に放送された『ファン・ジニ』。禁じられた恋に苦しむウノ役のチャン・グンソクは、端正な美少年だった。あのときのピュアなイメージに惹かれてファンになった人も多いだろう。

『ファン・ジニ』に続いて2008年には『快刀ホン・ギルドン』で再び時代劇に出たが、ガラリとイメージを変え、後のラブコメを想定させるような奔放な演技を披露した。

2009年に、『美男<イケメン>ですね』でついに大ブレーク。韓流の若手スターのトップに躍り出た。

演技だけでなく、音楽活動でも大人気を博し、グンちゃん旋風はとどまるところを知らなかった。

しかし、主演ドラマの『ラブレイン』と『キレイな男』は視聴率で大苦戦して、チャン・グンソクも逆風を浴びなければならなかった。

なにごとも、山あり谷あり、である。その谷を越えてめぐってきたのが『テバク』の主演だった。意気込みは半端ではない。

「イメージを変えるために、作品選びに慎重になっていました。今度は、演技力と誠実さで武装して生まれ変わったチャン・グンソクに期待してください」

この言葉は痛快だった。チャン・グンソクは自ら「生まれ変わる」と宣言したのだ。そうであるならば、彼の新しい演技を大いに楽しもうではないか。

 

名優と見事に渡り合う

粛宗(スクチョン)を演じるチェ・ミンス(写真/韓国SBS『テバク』公式サイトより)

粛宗(スクチョン)を演じるチェ・ミンス(写真/韓国SBS『テバク』公式サイトより)

究極的に言えば、視聴率に決定的に影響するのは企画と脚本であろう。特に、ドラマが面白くなるかどうかは脚本にかかっている。脚本の出来がよくないと、どんなに名優が演じても、その演技を生かしきれなくなってしまう。

そして、『テバク』の脚本を担当するのはクォン・スンギュ氏である。過去に『ペク・ドンス』(2011年/平均視聴率が18.5%)と『火の女神ジョンイ』(2013年/平均視聴率が12.0%)を執筆している。

クォン・スンギュ氏は「テギルは苦労の連続という役ですが、チャン・グンソク氏の作品に対する熱意が凄い」と語っている。

その熱意に応えて、クォン・スンギュ氏の脚本も、今後はストーリーが波瀾に満ちていくのだろう。それは、チャン・グンソクにしても望むところだ。

ただし、第10話までを見るかぎりでは、チャン・グンソクの出番はそれほど多くない。主人公ではあるが、彼の関わらない場でも次々に物語が進行している。

けれど、第11話以降は、そういうわけにはいかないだろう。チャン・グンソクが演じるテギルがドラマ全般に幅広く出てきて、物語を大いに活性化させるはずだ。

第9話で、テギルが初めて粛宗と相対する場面はとても印象深かった。粛宗を演じたチェ・ミンスの演技は堂に入ったものだったが、チャン・グンソクもチェ・ミンスを相手に緊迫した場面を見事に演じきっていた。

名優を相手に堂々と渡り合うチャン・グンソク。まさに、名優たちがチャン・グンソクの俳優魂に火をつけたのである。

文=康 熙奉(カン ヒボン)
コラム提供:ロコレ
http://syukakusha.com/

2016.04.29