「コラム」「芸能兵」はなぜ廃止されてしまったのか

韓国の軍隊には少し前まで、軍隊内の慰問公演や軍の広報に務める国防広報院・広報支援隊員という制度があった。いわゆる「芸能兵」と呼ばれた存在である。彼らは軍部の広報やイベントを率先して行なう部隊であり、配属されるのも俳優やアーティストなど知名度の高い人物に限られていた。

あまりに長すぎる休暇

21626b024eb6a68e84a172de59a3a576かつて芸能兵として活躍したイ・ジュンギ。彼が除隊したあとで芸能兵の制度が廃止になってしまった

芸能兵は、皮肉をこめて“国内最高のエンターテイメントグループ”と揶揄されることもあった。

芸能兵は広報を担当するという性質上、一般大衆の前に姿を見せる機会も多く、韓流スターの入隊時には芸能兵に配属されることを願うファンもたくさんいた。

ところが、現役で入隊している一般兵の多くは芸能兵に悪感情を抱く場合が多かった。厳格な軍規と階級社会の軍隊生活で、“芸能人”だからと特別扱いすることに不満を抱くのも当然だろう。

そんな芸能兵制度に対する不信感が一気に増したのが2011年だ。ある議員が過去3年間の資料を調査してみると、ほとんどの芸能兵たちが90日以上休暇を過ごしていることが発覚したのだ。

しかも、中には150日以上の休暇を過ごしていた者までいたという。

150日といえば21カ月の軍生活のおよそ5カ月を休暇に費やしたことになる。一般兵の休暇が平均的に30日くらいなのと比較して驚異の数字だ。

国民の怒りを買ってしまった

芸能兵への不満が高まる状況の中で、不祥事が相次いだ。

2012年の年末には服務中のRain(ピ)がキム・テヒとのクリスマスデートや、禁止されている携帯電話の所持、さらに、広報活動で済州島に遠征した際に豪華スイートルームに宿泊していたことがスクープされた。

軍服務中は格安のモーテルに泊まることすら許されない。近隣の軍施設に宿泊するのが大原則である。軍施設以外での宿泊は外出と判断されるからだ。当然、韓国内での芸能兵への風当たりは強くなる一方だった。

2013年6月、芸能兵制度を終焉に導いた事件が起きた。

韓国のテレビ局SBSの人気番組『現場21』が、『チョン・ジフン(Rain)以降、芸能兵の服務実態はどう改善されたのか』というロケを敢行したのだ。番組スタッフは事前調査の結果、複数の芸能兵が広報活動後に、部隊に戻らないで歓楽街にいるという情報をつかんでいた。

『現場21』は現場を抑えようと突撃リポートを敢行。歓楽街のモーテルで、人気歌手SE7EN(セブン)を中心に複数の芸能兵たちを発見した。

彼らは兵役中にも関わらず、私服に着替えて堂々と携帯電話を使用。酒を飲みながら焼き肉を楽しむなど、明らかな軍規違反を行なっていた。

『現場21』の放送による韓国人の怒りは凄まじく、連日国防省には芸能兵に関する苦情や実態を明かせというクレームの電話が鳴りやまない状況が続いた。

一番の広報活動とは?

 

1234みんなが軍の広報をすればいい(写真/韓国陸軍公式サイトより)

各マスコミはこぞって芸能兵の実態の解明を進めていく。

その過程で、芸能兵が使っている施設の充実度や、給料、外出許可などが一般兵と比較にならないほど優遇されていたことが発覚した。

事態がここまで大きくなると、韓国内では芸能兵の存在意義に関する討論が活発になった。その中でもっとも焦点が当てられたのが、「韓国は徴兵制を導入しているのに、軍の広報活動をする必要があるのか」というものだ。

確かに、徴兵制がなければ軍のイメージアップを図る必要もあるが、実態はそうではない。また、芸能兵の活動の一環として行なわれる軍内の慰問活動にしても同様である。

女性と接することが少ない軍生活の中で、女性アイドルが慰問に訪れるなら気合も入るだろうが、「果たして男性アイドルが慰問に訪れることで、部隊内の士気はあがるのだろうか」という疑問の声まで上がった。

その結果、2013年7月には芸能兵制度の廃止が国防省によって決定された。また、軍楽隊や義務警察、公益勤務に就く芸能人に対しても、警戒の目が向けられるようになった。

そのため、これらの部隊に配属されるためには、それなりの実績を示さなければ、国民の多くが納得しない土壌ができあがってしまった。

近年ではそうした疑惑の目を払拭するかのように、東方神起のユンホなど入隊したスターたちが優秀な成績で新兵訓練を修了している。こうしたスターたちの頑張りこそが、一番の広報活動につながるのではないだろうか。

(文=慎 虎俊〔シン ホジュン〕)

コラム提供:ロコレ
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2016.04.10