第9回/祭祀は一族の結束を固める
祭祀の後は知人の消息で盛り上がる
3月29日は父の命日だった。
日本では、亡くなった人の法要は、三周忌を過ぎると七回忌、十三回忌となり、何年もの空きが出る。
しかし、韓国ではたとえ何十年が経とうとも、かならず毎年行なわれる。
昔は命日当日の午前零時から祭祀(チェサ)を行なったらしい。しかし、現代社会では真夜中に親族が集まるのは難しいので、命日前日の夜に行なわれるのが普通だ。
よって、父の祭祀は3月28日の夜に行なわれた。午前中から忙しいのが親族の女性たちだ。早くから集まって、祭壇に備えるご馳走を作るのである。私の妻も祭祀の日にはかならず仕事を休まなければならない。
男は楽だ。仕事を終えてから夜に集まり、祭祀が始まるまで酒を飲んで待っていればいい。午前中から料理作りに忙しい女性とは労力にかなりの違いがある。
祭祀は30分もかからずに終わる。亡き人が地上に戻ってきたと想定して、たくさんのご馳走と酒を召し上がっていただく儀式を順番に行なっていく。そうやって祭祀が終わると、今度は先祖に差し上げた料理を列席者みんなで堪能するのである。
この場が賑やかになる。我が一族では男女が別々の席で会食をするが、男たちは大いに酒を飲みながら、政治・経済問題からスポーツの話までとりとめなくしゃべり続ける。
特に、「誰が金を儲けた」「誰が借金で逃げた」といった話は定番で、祭祀の酒の場は知人の消息で盛り上がる。
私はいつも長っ尻で、目の前の料理を片づけられても、構わずに酒を飲んでいる。そして、家に帰ると妻にお叱りを受けるのである。
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