★是枝裕和監督、イ・ジュヨン GuestVisit
6月5日(金)にはソウル・CGV龍山アイパークモールにて是枝裕和監督によるスペシャルGV(ゲストビジット)が開催された。進行は俳優のイ・ジュヨンが務め、多くの観客が詰めかけるなか、作品に込めた思いや撮影秘話、そしてAI時代における“人間らしさ”について語り合った。
『ベイビー・ブローカー』で是枝監督作品へ出演したイ・ジュヨンは、イベント冒頭に「いったいどうして私にこんな幸運が訪れたのでしょうか。是枝監督がいらっしゃっていますので、今日は私自身の余計な話はできるだけ控えめにして、監督とのお話を中心に進めていきたいと思います」と挨拶した。
韓国の観客との再会について是枝監督は、「こんなにたくさんお越しいただきありがとうございます。何より一緒に映画を作ったキャストやスタッフと再会できるのが、ご褒美のような時間です。今日はイ・ジュヨンさんと皆さんの前に立つことができて嬉しいです」と感謝を伝えた。
トークではまず、柊木陽太が演じたヒューマノイド・リーダーの今野詩季(たくと)について、イ・ジュヨンは、詩季はヒューマノイドたちのリーダーなのか、それともヒューマノイド側から見た“人間”なのか、その立ち位置があえて曖昧に描かれているように感じた。どちらの解釈も成り立つ存在であり、人間とヒューマノイドの境界そのものを象徴する存在のように感じた」と作品の印象を語った。また、設定上の答えを知りたいというよりも、「柊木さんにどのような説明や演出を行い、役づくりの過程でどのような対話を重ねたのかが気になる」と是枝監督に質問を投げかけた。是枝監督は、柊木に対し「詩季はヒューマノイドという設定だが、翔にとってはメンターのような存在として登場してほしい」と伝えていたことを明かし、「特にラストのシーンでは、誰が生きていて死んでいるか関係なくなり、機械と自然が一体化していくことで、色んなものの境界線が曖昧になっていく世界をイメージしていました。その象徴が柊木くん演じた詩季です」と説明した。
また、本作の印象的な舞台となった大船周辺の街並みや、音々と健介が暮らす家についても話題が及んだ。是枝監督は、物語の舞台として「建築家が自ら設計して建てた家」をイメージしていたことを明かし、ロケ地選定の経緯について語った。監督は「決め手は柵のない渡り廊下でした。実際にその家に住んでいるお子さんが、そこで絵を描いたりして過ごしていると聞いたんです。その話を聞いている時に、ちょうど後ろを電車が通って音が聞こえてきて、それがすごく良いなと思って決めました」と振り返った。
さらに、甲本夫婦の住まいについては、「今住んでいる家は二人で建てたという設定です。基本的には妻の音々が設計した家で、健介の趣味ではありません。健介がこだわったのはヒノキのお風呂だけで、唯一自分の主張を通して作ったスペースなんです」と説明。「そういう夫婦の棲み分けを意識していました」と、住空間にも登場人物の関係性や個性を反映させていることを明かした。
観客とのQ&Aでは、ヒューマノイド・翔役を務めた桒木里夢のキャスティングについて質問が寄せられた。
是枝監督は、「もう第一印象でした。部屋に入ってきた瞬間に『この子だな』と思いました」と振り返りながらも、実際には5回ほどオーディションを重ねたことを明かした。「子どもだけのシーンやお母さんとのシーンなど、さまざまなパターンを試しました。最後は映画の後半に出てくるお風呂場のシーンを、大悟さんにも来ていただいて一緒に演じてもらいました」と説明。「あの年齢の男の子は日によって集中力にムラがあるものですが、里夢くんはとても安定していました。コミュニケーション能力も高く、子どものシーンでも大人とのシーンでも本当に上手でした」と絶賛した。
さらに撮影現場でのエピソードとして、「綾瀬さんと大悟さんがとてもフランクで親しみやすい方だったので、撮影の合間も3人で本当の家族のように過ごしていました」と明かした。「ある日ふと見ると、里夢くんが大悟さんの頭をずっと撫でていたんです。それを見て『これはいいな、撮りたいな』と思って、ラストの森のシーンで翔が健介の頭を撫でる場面を書きました。里夢くんが実際にやっていたことをそのまま映画に取り入れたんです」と語り、会場を沸かせた。
続いて、ヒューマノイドの“心”をどのように描いたのかという質問も寄せられた。
是枝監督は、AI研究者への取材を通じて得た着想を紹介。「ヒューマノイドが自意識やアイデンティティを持つことはあり得るのかと聞いたところ、『プログラムすれば搭載できます』という答えでした」と振り返った。そのうえで、「個々のロボットに心を持たせるという発想ではなく、彼らが集団を作り、社会を形成した時に、社会全体として意思を持つことはあり得るかもしれないと言われたんです。それがとても面白かった」と語る。さらに、「個々の中に心があるのではなく、誰かと誰かの間に生まれるものだとしたら、それはとても美しいことだと思いました。もしかしたら人間も同じなのではないか。人は一人では感じられないものを、誰かと関わることで初めて感じられるのかもしれません」とコメント。「ヒューマノイドと人間の違いはそれほど大きくないのではないかと考えました」と作品に込めた思いを明かした。
また、劇中でヒューマノイドたちが共通の髪型をしている理由についても質問が及ぶと、監督は笑いながら「髪型の話を振られるとは思いませんでした」とコメント。「この作品では、ヒューマノイドの物語であると同時に、子どもが親離れしていく物語も重ねて描こうと思っていました」と説明した。
「ある日突然、子どもは親の知らない人間関係を作り、やがて新しい家族を作って家を出ていく。大人が気づかないうちにそういうことが起きるんです」と語り、「同じアクセサリーでもタトゥーでもよかったのですが、一目で分かるものとして髪型を選びました。彼らが新しい社会や新しい家族を作っていることをビジュアルとして明確にしたかった」と明かした。
さらに、映画作りにおける人物設計について質問を受けた是枝監督は、「登場人物が何を感じ、何を考えるのかをずっと想像しながら物語を作っています」と説明。「最初は自分の外側にいる人物として見ていますが、ある瞬間、その人物が自分自身だと感じることがあります」と語った。一方で、「すべてが自分の価値観や倫理観だけで完結してしまうのは良くない。その人物は自分とは違う人間として歩き出さなければならない」としながらも、「今回で言えば、健介のある瞬間の感情が、自分が子どもと接している時の感覚と重なることはあります。その方が人物に説得力が生まれることもあります」と創作論を披露した。
イベント終盤には、翌日に誕生日を迎える是枝監督へのサプライズ企画も実施され、会場全体で祝福ムードに包まれた。
最後に是枝監督は、「ヒューマノイドと人間を分けるものは何なんだろうと考えながら、この映画を作りました」と改めて作品のテーマに言及。「僕が気に入っているのは、音々と健介が最後まで完全に分かり合うわけではないところです」と語り、「『もう少し翔と一緒に暮らしたい』と言う音々に対して、健介は『俺もそう思ってた』ではなく、『それでええんちゃうん?』と言う。『私たち捨てられたんだよね』という言葉にも、『親はみんなそういうもんちゃうか。知らんけど』と返す。その『知らんけど』がいいんです」と笑顔を見せた。「それくらい曖昧で、いい加減な共感や距離感のほうが、人間同士はうまくいくのかもしれない。そういう微妙なずれこそが、人間の持つ優しさなのではないかと思っています」と語り、「そんな映画をこれからも作り続けたいと思います。今日はありがとうございました」と締めくくった。
『箱の中の羊』
■出演:綾瀬はるか 大悟(千鳥)
桒木里夢 清野菜名 寛一郎
柊木陽太 角田晃広 野呂佳代 星野真里 中島歩
余貴美子 田中泯
■監督・脚本・編集: 是枝裕和
■音楽:坂東祐大
■製作: フジテレビジョン ギャガ 東宝 AOI Pro.
■制作プロダクション:AOI Pro.
■配給:東宝 ギャガ
©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.
■公式サイト:gaga.ne.jp/hakononakanohitsuji ■公式X&公式instagram:@Hakohitsujifilm
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