綾陽君(ヌンヤングン/後の仁祖)は仁穆王后の怒りがあまりに大きいので、その場を退散して、また改めて出掛けた。仁穆王后も少し頭を冷やしたようで、「大義名分を出すには条件がある。あの化け物の首を取ってまいれ」と言った。
「首を取ってまいれ」
綾陽君は仁穆王后にこう答えた。
「いやいや、それは絶対にできません。先王の首をはねるようなことをすれば、私が歴史で糾弾されます」
仁穆王后は首を振った。
「ならぬ。首を取ってまいれ、さもなければこの話はなしだ」
こうした問答が何回も続く。
様々な時代劇では光海君の処遇をめぐって綾陽君と仁穆王后が論争するシーンが名場面になっている。
仁穆王后があまりにも激昂して倒れたりする。仁穆王后を演じる人にとっては、この場面こそが自分の女優人生の最高潮になるのだ。
あまりに綾陽君が「首は取れない」と主張するので、仁穆王后も承知せざるをえなかった。しかし、彼女は、とてもしたたかだった。
「憎き光海君の首は諦めたが、その代わり貞明公主に大きな土地を与えよ」ということになった。
このとき、貞明公主は20歳だった。
普通、王女が20歳まで結婚しないというのは絶対にありえない話で、通常は10代前半で良家の御曹司と結婚することになっている。
しかし、彼女は軟禁されていたので、それができなかった。
20歳まで結婚しない王女は考えられないので、当然ながら釣合の取れる相手も残っていない。なぜなら、良家の御曹司もだいたい10代半ばで結婚するからだ。
結局、手を尽くして、ようやく3つ下の洪柱元(ホン・ジュウォン)を見つけて貞明公主の夫にした。彼は、『華政』でも貞明公主を助ける役として、よく出ていた。
(第5回に続く)
文=康 熙奉(カン ヒボン)
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激動の中で国王はどう生きたか1「光海君の即位」