おそらくことし一年で最も奇抜でユニークなジャンル映画になるだろう。
チョン・ユミとイ・ソンギュン、2人の俳優の力量。静寂でありながら虚をつくストーリ-とサスペンスが調和した魅惑的なホラー心理劇。映画「眠り」(監督:ユ・ジェソン)だ。
来る9月6日の公開を控えた「眠り」は、幸せな新婚夫婦ヒョンス(イ・ソンギュン扮)とスジン(チョン・ユミ扮)を悪夢のように襲った夫ヒョンスの睡眠中異常行動、寝入った瞬間から始まるおぞましい恐怖の秘密を解きあかすため努力する2人の物語を描いた映画だ。
「眠り」は、去る5月に開催されたカンヌ国際映画祭批評家週間に招かれてはじめてベールを脱いだ後、国内外の評壇やメディアの絶賛を引き出した。「単なる夢遊病に対する想像力と巧妙な変化」「息をする暇もなく魅力的でドラマチック」と好評を博し、カンヌをはじめ、シッチェス国際ファンタスティック映画祭、トロント国際映画祭、ファンタスティックフェストに招待され、海外映画界から愛を受けてきた。
映画の構造はミニマルだ。主な登場人物がヒョンスとスジンの2人だけで、物語が展開される場所も2人の家のリビングと寝室に限られている。ただ、物語を大きく3章に分け、各章間に大きな変化を与えた。やや単調で退屈になりかねない展開に息を吹き込み、各章間の空白に何が起こったのか、想像力を吹き込む賢い装置だ。昨年カンヌ映画祭をはじめ韓国の授賞式を席巻したパク・チャヌク監督の「別れる決心」を思わせる構成でもある。
映画は、妊娠中のスジンが夫ヒョンスの睡眠中異常行動を初めて発見するシーンから始まる。その後、夫婦が一丸となって夢遊病を治療するため睡眠クリニックに通う過程、どんどんひどくなるヒョンスの睡眠中異常行動、それを見守りながら眠れないスジン、娘ハヨンが生まれてからさらに極度の不安と恐怖に包まれて徐々に狂っていくスジン、何とかして問題を解決しようと孤軍奮闘する夫婦の内的・外的葛藤と結末まで…。ひたすら2人の状況とそれに伴う心理変化だけで観客をつかんでクライマックスまで引っ張っていく。
上映時間は94分と短くてコンパクトだ。これまでのホラー映画の必須要素である不思議な自然現象や幽霊の登場、連続殺人魔の出没もないが、全身に鳥肌が立つ。ストレスを抱えて暮らす現代人の病気である「睡眠障害」を恐怖の素材として掲げたユニークさが際立つ。日常的な要素をホラーにすることで、世界中の人が共感する普遍性を帯びると共に、マンションという空間で発生する層間騒音(上下層間での騒音トラブル)など、韓国的な要素も適切に盛り込まれた。
各章ごとに変化する家の中の雰囲気と、適切な音楽選択、繊細な効果音で、94分間ずっと緊張を解くことが出来ない。自分でも知らぬ間に自分が何をしでかすか分からず不安に震える夫、そんな夫を見て眠ることが出来ない妻の心理変化を、俳優たちがせりふと身振りで繊細に描いた。
何よりもこの映画が、ただ素材が独特なジャンル映画であるのを飛び越えてウェルメイドに盛り上がることが出来たのは、チョン・ユミとイ・ソンギュンの2人の俳優の限界を超える熱演によるものだと言っても過言ではない。特にチョン・ユミが演じたスジンは話が進むほど感情線や心理が極端に暴れて変化するキャラクターだ。映画の中盤まで9にとどまっていたスリルと恐怖が、チョン・ユミの鋭く壮絶な好演のおかげで終盤で10になり完全になる。
ホラーのジャンルに規定できない多彩さもこの映画の魅力だ。現代社会の日常を風刺するブラックコメディでもあり、お互いがお互いをあきらめず救おうと努力する夫婦の切ないロマンスでもあり、凄絶な家族劇でもある。もちろんこれは、何とか妻と子供を、家族を守りたいという夫のすさまじい努力と愛、犠牲を表現したイ・ソンギュンの立体的な熱演で満たされる。
ユ・ジェソン監督は映画「オクジャ/okja」の演出部出身で、ポン・ジュノ監督と2年以上共にした弟子でもある。
小物やインテリア、音楽など、ディテール一つ一つに魂を込めるポン・ジュノ監督の演出スタイルと、才気あふれるユーモアセンスを見事に受け継ぎながら、自分だけのカラーまでしっかり描き出した強烈なデビュー作だ。
9月6日公開。15歳以上閲覧可能。
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