2.みどころ(映画評論家・立花 珠樹 氏)
■21世紀の映画史に輝く傑作
現実の連続殺人事件は犯人が判明
監督ポン・ジュノ、主演ソン・ガンホといえば、昨年の米アカデミー賞で4冠に輝いた『パラサイト 半地下の家族』の記憶が新しい。
『殺人の追憶』は、『グエムル 漢江の怪物』や『スノーピアサー』でもコンビを組んだ2人が、初めて顔を合わせた記念すべき第1作だ。何度も見て、『パラサイト』を上回るポン・ジュノ監督の最高傑作にして、21世紀の映画史にさん然と輝く作品だと、確信を深めている。
1986年、韓国の首都ソウル近郊の農村。殺害された女性の遺体が、用水路で見つかる。現場に駆け付けた地元警察署のパク刑事(ソン・ガンホ)は、子どもたちや野次馬を追い払うことから、捜査に着手する。これが、1986-91年に10人の女性が殺害された連続殺人事件が表面化するきっかけだった。
冒頭のこの場面から、ノンストップで物語が進行する。科学捜査とは程遠い警察の実態をコミカルに描きながら、異常な犯行の実態や、刑事たちが犯人を絞り込んでいく過程が息もつかせず展開する。
捜査の進展に大きな役目を果たすのが、ソウルから応援にやってきたソ刑事(キム・サンギョン)。過去の捜査資料を丁寧に調べて、殺人事件が雨が降る日に起き、被害者が赤い服を着ているのに気付く。知的なソと、直感に頼るパクは対立しながらも、次第にお互いを理解していく…。
韓国では当時、急進的な民主化運動などが始まっていた。機動隊によるデモの鎮圧や、空襲訓練時の灯火管制などが、映画の中でも描かれる。学歴による格差なども含め、背景の時代や社会が伝わってくるのが、映画に厚みを与えている。
昨年7月、韓国の警察当局は、別の殺人事件で収監中の57歳の受刑者が10人に加え、他にも4人を殺害していたとする捜査結果を発表した。男は14人の殺害を自白したが、全て公訴時効が成立しているという。
この男が容疑者として浮上したのは「事件当時は検出できなかったDNAが、鑑定技術の発達で検出可能となったため」だという。まるで、映画のストーリーの延長上にあるような事実に驚く
。
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