鄭銀淑(チョン・ウンスク)著の『美味しい韓国 ほろ酔い紀行』(双葉社発行/700円+税)
「今の韓国を知るのに最適な本はありますか?」と尋ねられたら、迷うことなく『美味しい韓国 ほろ酔い紀行』(著者は鄭銀淑〔チョン・ウンスク〕)を勧める。酒場という限られた場所ではあるが、この本を読むと、今の韓国の人たちの生き生きとした姿が伝わってくる。
酒場にはドラマがある
私(康熙奉〔カン・ヒボン〕)の一番の趣味は、日本全国の酒場めぐりだ。体力と小遣いがあれば、列車に乗り各地を訪ねて酒場に入り浸っている。そんな私が言うのだから間違いない……鄭銀淑さんは「韓国の酒場めぐりの名人」である。
彼女は韓国各地をまわって極上の酒場を探し続けている。ここでいう「極上」とは、名店ランキングに載るような人気店ではない。むしろ、地元の人にとっては、ありふれた大衆酒場にすぎない。しかし、本書を読めばわかる。ツマミが豊富で美味しく、人情のある主人が切り盛りしている店こそが、酒飲みにとっての極上であることが……。
ただし、誰もが鄭銀淑さんのように、韓国各地ですばらしい酒場と出会えるわけではない。それでも、安心していい。本書を読めば、まるで鄭銀淑さんに連れられて楽しく酒場めぐりをしているような気分になる。
彼女は「はじめに」でこう書いている。
「50歳を過ぎ、自分が何を求めて旅を続けているのかわかってきたような気がする」
「酒や食べ物を追いかけてきたように見えるかもしれないが、じつは原料や製法などにはそれほど興味はない。それより、飲食にまつわるドラマとそれを食べている人々の姿をとらえたかった」
この言葉に沿って、本書は書き進められている。前半はソウルを中心にまわり、後半に韓国の地方に出掛けている。どこをまわっても、鄭銀淑さんは独特の臭覚で「ぜひ行きたい!」と読者に思わせるような酒場を見つけている。
個人的には、朝鮮半島の東海岸を南下する酒場めぐりの記述が好きだ。
「これも縁だよ。おみやげに持っていきなさい」
そんな声をかけてくれる、情が深い女主人が次から次へと出てくる。
ある店では勘定を受け取らない女将がいた。
「施せば全部自分に返ってくる。遠慮することなんかないわよ」
たっぷり飲んで、こんなふうに言ってくれたら、気分は最高だろう。
40年間も飲食店を続けてきた72歳の女将はこう言う。
「へたに休むと体に毒だよ。人間、働き続けなきゃ」
こうした女将たちのおかげで、韓国の酒飲みは珠玉の酔いを味わう。その様子を鄭銀淑さんは丹念に書き留めている。
シュポ(酒も売っている食料雑貨店)の店先で地元のマッコリを飲みながら店のお母さんと会話をする場面が特にいい。情景が浮かんでくる。鄭銀淑さんの真横に座って自分も飲んでいるかのような気分になってくるのだ。
そんなふうに、読んで心地よく酔えるのが『美味しい韓国 ほろ酔い紀行』の醍醐味である。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
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本書の詳細は下記のリンクをご覧ください。
https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-71481-4.html?c=40600&o=&