「コラム」K-POPの若手スターはどのように育てられるのか

韓国の芸能事務所によって、K-POPの若手スターたちはどう育てられるのか。参考例として、日本でもよく知られている少女時代の結成過程を説明しよう。9人のメンバーは練習生の中でもエリート中のエリートだった。

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練習生期間は平均5年間

芸能事務所のSMエンターテインメントが女性アイドルグループをデビューさせようとしたのは2005年だった。

以後、2年間に4回にわたって内部オーディションを行なって、メンバーを構成していった。そこで最終的に残った9人によって少女時代は結成された。

内部オーディションは、練習生という予備軍を対象に行なわれた。公開オーディションで選抜された練習生はダンスと歌はもちろん、演技と外国語を学ぶ。その費用はすべて事務所が負担する。

この練習生の中でもデビューの機会を得られるのはほんの一握りで、多くはデビューすら出来ないまま、諦めてしまう。たとえデビューできても、練習生は長い時間辛抱しなければならない。

少女時代のメンバーの練習生期間を見ると、一番長い場合が7年6カ月、一番短いメンバーが2年7カ月で、平均が5年間である。

このように長い時間が必要なのは、企画したチームに合う練習生をじっくりと選ぶからだ。つまり、練習生の身になれば、事務所が自分に合うチームを企画するまで待つしかないのだ。

事務所からすれば、長い時間観察してその能力とキャラクターを十分把握している練習生だけを選んでふさわしいチームに入れるため、企画出来るチームの幅も広くなり、また安定したメンバーで構成することができる。

生き残るのは容易でない

韓国には日本のようなシングル盤市場がない。

アルバムしか通用しないのだ。

数年前からデジタル・シングルというネットを利用したシングルが作られているが、これもアルバムの発売の前に宣伝効果を得るのが主な目的だ。

1~2曲しか入ってないシングルと違って、アルバムは制作費用がかかる。その分、失敗したときのリスクも大きい。

事務所としては、実力を備えたチームを作ってなるべくリスクを減らす必要がある。そのためにも、よく訓練された練習生の存在は大事なのである。

こうして結成されたチームでも成功の確率は低い。

毎年多くの新人のチームがデビューするが、その中で生き残るのはわずかな一部に過ぎない。

また、多くのアイドルはデビューの際、不平等な契約を結んでいる場合が多い。デビューだけが目的だった練習生としては、契約の条件などはどうでもいいと思ってしまうからである。

また、事務所としても練習生にかかったトレーニングの費用などを考えると、なるべく取り分の多い契約を結ぼうとする。

そこで不平等な契約が出来てしまうのだ。

表現力と誇示欲が特徴の若者たち

現在、K-POPのスターを夢見る若者たちは、それ以前の若者たちと明らかに違う感性や価値観を持っている。

最近の若者たちの世代的な特徴とは何だろうか。

特に、自己表現力と自己誇示欲の2つの点を挙げられる。

まず、以前の世代より「自己」というものを具体的な形で持っている。たとえば、先輩世代が集団の中で自己を探そうとしたとすると、今の若者はまず自己を持って社会を見ようとする。

これは少子化によって兄弟が少ないため、親の愛を独占し、周り(兄弟や友だち)と意見や感情交流する機会が少ない環境で育ったのが大きな原因だろう。

先に自己を確立した彼らはネットやモバイルを通じて、自分の意見を簡単に気軽に表現するスキルを身につけた。発達した韓国のオンライン環境は彼らに何よりも身近で便利な表現手段を与えたのだ。

オンラインでの表現は時間と場所を問わずに可能である同時に、相手を見なくても出来るという点で即興的に使える。頻繁に自分の感情と意見を表現してきた今の若者は優れた自己表現力を身につけることが可能となった。

また、大勢の対象に同時に伝達することができるオンラインの特徴は、彼らの自己誇示欲を刺激した。「人に自分を見せたい」という願望は「人より見た目が優れたい」「優れた見た目の人が羨ましい」という方向にも発達して、ルックス至上主義に走らせた。

ただし、意見と感情の交流や調節には不馴れなため、コミュニケーション能力が落ちて自己中心になりすぎるというきらいがある。そのあたりに課題が残っている。

夢を持った若者たち

K-POPのスターの活躍によって、子供たちの夢に堂々と芸能人が入るようになったのは、韓国社会の大きな変化だ。

しかし、未だに芸能人を「タンタラ」と呼んで見くびる傾向が残っている。アイドルやK-POPのスターの活躍、文化産業の発展によって芸能人の地位は少しずつ変わっているのだが、まだ多様性を許せない韓国社会の視線は、芸能人になろうとする人にとって大きな障害となる。

国・地域・家など集団の価値が個人よりも上であると考える傾向がまだ残っている韓国社会で、少数または目立つ存在を寛容的に見る視線は少ないのが現実だ。

また、人件費が現実的な水準まで上がっていない韓国では、アルバイトだけで生活することは不可能だ。

物価は上がる一方なのに最低賃金を初め人件費は変わっていない。そのため、音楽をやりながら、アルバイトで貧しくても生活ができるというのはありえない。どの国も音楽だけで食っていけるのは一部で、多くはアルバイトなどをして生活を立てるが、韓国ではそれさえもできないのである。

そんな状況の中でも、夢を持った若者たちがK-POPの世界を次々にめざしている。彼らの熱意が実を結ぶ日が来ることを祈りたい。

文=朴 敏祐(パク ミヌ)+「ロコレ」編集部

コラム提供:ロコレ
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2016.06.04