
※あらすじ・ネタバレになる内容が含まれています。
視聴率18.5%と9.0%。10月の韓国ドラマ界で、2人の女性主人公が存在感を際立たせている。
キム・ジウォン主演のSBS金土ドラマ「ドクターX ~白衣のマフィア~」(以下、「ドクターX」)は、わずか4話で全国視聴率18.5%を記録。一方、キム・ユジョン主演のtvN土日ドラマ「100日の嘘」も、第4話で9.0%に到達した。
一方は、圧倒的な手術の腕で病院の権威に立ち向かう女性外科医。もう一方は、1932年の朝鮮総督府に潜入し、命懸けの任務に身を投じる女性密偵だ。
時代も舞台も異なる2作品だが、その中心には共通する人物像がある。組織に従うのではなく、自らの判断で行動し、巨大な権力に亀裂を入れる女性主人公だ。
しかも、両作品は医療描写への批判や歴史認識を巡る議論を呼びながら、視聴率と話題性を伸ばしている。
なぜ今、彼女たちの物語がこれほど視聴者を引き付けるのか。その背景には、韓国ドラマにおける女性主人公の描かれ方の変化と、現代社会が抱える閉塞感が見えてくる。
高齢患者の腹部を開いたまま、病院長が突然倒れる。
医師たちが慌てて病院長のもとへ駆け寄る中、手術台に残された患者へ静かに歩み寄ったのは、派遣外科医ケ・スジョン(キム・ジウォン)だった。
混乱する手術室でも動じず、冷静に手術を引き継ぎ、完璧に終わらせる。しかし、その結果待っていたのは解雇通告だった。それでも病院は、彼女を手放すことができない。
VIPの車いすを奪って倒れた少女を乗せ、脳出血で倒れた清掃労働者の頭部をためらうことなく切開する。回診も会食も残業も拒否する彼女が貫く原則は、ただ1つ。
「手術は失敗しない」
「ドクターX」は初回から全国視聴率11.4%(ニールセンコリア調べ)を記録し、ことしのミニシリーズ初回放送で最高の数字を打ち立てた。その後、第4話では18.5%、瞬間最高視聴率は20.8%まで上昇した。
Netflixでも非英語TV番組部門で2週連続1位を獲得。韓国、フィリピン、ベトナム、インドネシアなど7か国で首位に立ち、48か国でトップ10入りを果たした。
この快進撃を支えるのは、ケ・スジョンという主人公の圧倒的な存在感だ。
これまで韓国の医療ドラマでは、「白い巨塔」のチャン・ジュンヒョクや「浪漫ドクター キム・サブ」のキム・サブなど、天才的な医師の役割は男性が担うことが多かった。
一方、女性医師は「外科医ポン・ダルヒ」のように、実力を認められるために努力を重ねる成長物語の主人公として描かれてきた。
しかし、ケ・スジョンは違う。彼女は登場した時点で、すでに外科医として頂点に立つ実力を持っている。「どうせ切り捨てればいいしっぽだ」と言い放った病院長(ソン・ヒョンジュ)でさえ、結局は彼女を呼び戻さざるを得ない。
組織に認められるために努力する女性ではなく、組織のほうが必要とせざるを得ない女性。この力関係の逆転が、「ドクターX」の痛快さを生み出している。
■「私の背後にいるのは2,000万の朝鮮の民」――生き残るための嘘が歴史を動かす
「私の背後に誰かがいるとすれば、それは2,000万の朝鮮の民だ。大韓独立万歳!」
1932年、キョンソン(京城)駅。
アメリカ行きの船賃を貯めていたスリのイ・ガギョン(キム・ユジョン)が盗んだかばんから、銃弾がこぼれ落ちる。
かばんの持ち主は、朝鮮総督府のナンバー2、サトウシンイチ(佐藤真一/チン・ソンギュ)を暗殺するため、13年ぶりに帰還した狙撃手ユ・ソラン(キム・ヒョンジュ)だった。
暗殺作戦に巻き込まれたガギョンは、アメリカ行きを条件に、100日間にわたって総督府の通訳見習いに成り済ます。金だけを信じて生きてきたスリが、やがて独立を叫ぶ存在へと変わっていく。
「100日の嘘」は初回視聴率5.3%でスタートし、第4話で9.0%(有料プラットフォーム基準)を記録。同時間帯1位を獲得した。
「ドクターX」とは放送形態も視聴率の集計対象も異なるため、数字だけで単純に比較することはできない。しかし、話題性では両作品が激しく競り合っている。
FUNdex(ファンデックス)が発表した10月第3週の話題性ランキングでは、両作品の差はわずか2.07ポイント。出演者部門でもキム・ジウォンとキム・ユジョンが1位と2位を占めた。
「100日の嘘」には、総督府の通訳官サトウヒデオ(佐藤英雄/キム・テウン、演:「GOT7」パク・ジニョン)とのロマンスも描かれる。
しかし、物語の主導権を握るのはガギョン自身だ。彼女がつく嘘、危機を切り抜ける機転、そして自ら下す決断が、壮大なスパイ劇を動かしている。
恋愛によって運命が変わるのではない。生き残るために自ら選択を重ねる中で、恋愛もまた彼女の人生の一部となっていく。その姿は、誰かに救われることを待つヒロイン像とは一線を画している。
■キム・ジウォンとキム・ユジョン、異なる道からたどり着いた新たな代表作
「ドクターX」は、テレビ朝日が2012年から2021年まで7シーズン、全69話を放送した「ドクターX ~外科医・大門未知子~」を初めて海外でリメイクした作品だ。
ただし、単なる原作の再現にはとどまらない。手術室への防犯カメラ設置の法制化、医学部定員の増加に反対する医師たちの集団ストライキなど、韓国医療界が抱える現実的な問題を物語に盛り込んでいる。
主演のキム・ジウォンにとっても、今回はこれまでとは異なる視聴率の推移を見せている。
「サム、マイウェイ~恋の一発逆転!~」は5.4%から13.8%、「私の解放日誌」は2.9%から6.7%、「涙の女王」は5.9%から24.9%へと上昇した。
比較的低い数字からスタートし、口コミによって人気が拡大してきた過去作とは異なり、「ドクターX」は初回から2桁視聴率を記録した。
一方、キム・ユジョンの転機となったのは、前作のTVINGオリジナルドラマ「親愛なるX」だった。
頂点に立つためなら他人を踏みつけることもいとわない悪女ペク・アジンを演じ、従来のイメージを大きく変えた。
同作は6週連続でTVINGオリジナル作品の新規有料加入への貢献度1位を記録。歴代TVINGオリジナル作品の中でも、視聴時間と最後まで視聴した人数の両方で1位に立った。
海外でもRakuten Vikiで108か国1位を獲得し、「TVINGの孝行娘」と呼ばれるほどの成果を残した。
「100日の嘘」の制作発表会で、リュ・ボリ脚本家は「視聴者を魅了する俳優が必要だった」と語っている。
悪女ペク・アジンから密偵イ・ガギョンへ。キム・ユジョンは異なる人物を演じながら、作品の中心を担う俳優としての存在感を証明している。
「異議があります。老いてなお欲深すぎます」
初出勤の日、ケ・スジョンが放った痛烈なひと言だ。
回診、会食、残業を拒否する彼女の姿は、組織の理不尽な慣習に縛られる会社員にとって、長年の理想ともいえる。
その共感を裏付けるように、「ドクターX」第4話の2049ターゲット視聴率(20~49歳)は5.9%を記録し、土曜日の全番組で1位を獲得した。
特に印象的なのは、開頭手術ができる医師がいなかったために救命のゴールデンタイムを逃し、死亡した救急救命士を巡るエピソードだ。
病院がその死について公に謝罪する展開は、制度では解決できなかった不条理を、1人の医師の実力によって打ち破る「サイダードラマ(胸がすくような痛快なドラマ)」の系譜を受け継いでいる。
医療界の混乱に疲れた視聴者にとって、ケ・スジョンの行動は強烈なカタルシスとなる。
一方、「100日の嘘」がもたらす感情は少し異なる。
「朝鮮にも、もうすぐ春が来るだろう」
朝鮮総督府の通訳官スズキ(キム・ドヒョン)が、独立運動組織・救国団の密偵であることを明かしながら残した言葉だ。
第4話の序盤、救国団の試験として拉致されたガギョンが、額に銃口を突き付けられながらも、最後まで仲間の名前を明かさない場面では、視聴者の反応が最高潮に達した。
ユ・インシク監督は「独立運動家を動かした力が何だったのか知りたかった」と明かしている。
リュ・ボリ脚本家が語る「痛快さであり、慰め」という言葉の通り、歴史を基にしたフィクションは、現代の視聴者にも感情的な解放感をもたらしている。
両作品に共通するのは、主人公が視聴者の代わりに声を上げることだ。
ケ・スジョンは医療組織の不条理に、イ・ガギョンは植民地支配という巨大な権力に立ち向かう。舞台も時代も異なるが、その姿が生み出す爽快感には通じるものがある。
■高視聴率の裏で浮上した医療描写への批判
ただし、両作品の快進撃が必ずしも称賛一色というわけではない。
「ドクターX」では、心停止した患者に300ジュールの電気ショックを与える描写や、1型糖尿病の子どもを「薬物中毒者」のように描いた設定などが問題視された。
これらの描写を巡り、韓国の放送通信審議委員会には審議申請が提出されている。
医療監修を担当したナムグン・イン教授も、「監修が制作陣に敗北した」と苦言を呈した。
一方、SBS側は「別途の立場はない」とし、各話でフィクションであることを告知するにとどまっている。
それでも視聴率は18.5%まで上昇した。
視聴者を引き付ける劇的な演出と、医療を扱う作品に求められる正確さや倫理。その両立は、人気が高まるほど難しい課題として浮かび上がる。
■「反日ドラマ」との声も…日本での反応と歴史を描く意味
一方、「100日の嘘」は日本でもさまざまな反応を呼んでいる。
一部の日本のネットユーザーから「反日ドラマ」との指摘が上がる一方、日本のNetflixではTV番組ランキング10位に入った。
朝鮮総督府のナンバー2、サトウシンイチを演じるチン・ソンギュの日本語演技にも注目が集まっている。
もともと日本語をまったく話せなかったというチン・ソンギュは、2か月間日本に滞在し、1日7時間ずつ台本を覚えた。その演技は日本の視聴者からも称賛を受けている。
作品の根底には、実際の歴史がある。
ドラマは、1932年にイ・ボンチャン(李奉昌)とユン・ボンギル(尹奉吉)が相次いで起こした抗日独立運動の義挙を、スパイ劇の中に織り込んでいる。
ユ・ソランが失った娘の故郷として登場する架空の村「ケアムリ」は、1919年に起きた「チェアムリ(堤岩里)虐殺事件」をモデルにしている。
また、ユ・フィリップ(イ・ムセン)が暮らす洋風住宅「ヒウォン」は、日本の植民地支配下での残虐行為を海外に伝えたAP通信のアルバート・テイラーの邸宅「ディルクシャ」をモデルとしたものだ。
こうした歴史的な背景が、フィクションに奥行きを与えている。
YouTubeでは海外のリアクション動画制作者たちがドラマの感想を共有し、1920年代の韓国史に改めて目を向ける動きも見られる。
さらに、11月29日までソウル歴史博物館で開催されている特別展「1932年 京城、密偵になる」へと関心が広がっていることも、作品が持つ社会的な役割を示している。
■なぜ今、2人の女性主人公が支持されるのか
「ドクターX」と「100日の嘘」は、ジャンルも舞台も異なる。
一方は現代の医療現場を描くドラマ。もう一方は1932年の植民地支配下を舞台にしたスパイ劇だ。
しかし、どちらの主人公も、巨大な組織や権力に従うのではなく、自らの判断で行動する。
ケ・スジョンは病院の権威に屈せず、患者を救うために手術を続ける。イ・ガギョンは生き延びるためについた嘘を武器に、歴史の渦中へ飛び込んでいく。
ある放送局関係者は「2つのドラマは、大衆が古いシステムに対して抱いている深い疲労感を突いている」と分析した。
さらに、妥協を知らない外科医と、ロマンスさえも生存の武器にする密偵について、不条理に亀裂を入れる現代的なダークヒーローであり、主体的な女性の物語を象徴する存在だと評価している。
視聴率18.5%と9.0%という数字は、単なる人気の指標ではない。
女性主人公が物語の中心で自ら決断し、巨大な権力に立ち向かう姿が、今の視聴者に強く響いていることを示している。
一方で、医療描写の倫理や歴史の受け止め方を巡る論争も、作品が社会に投げかける問いの大きさを浮き彫りにしている。
キム・ジウォンとキム・ユジョン。異なる時代を生きる2人の女性主人公が、韓国ドラマの新たな主役像を切り開こうとしている。









