
「明らかにソウルでのコンサートなのに、周りからは中国語しか聞こえなかった」
海外に強力なファンダムを持つK-POPアイドルの韓国公演をめぐり、韓国のファンからたびたび聞かれてきた嘆きだ。しかし最近、公演会場の光景に変化が生まれ始めている。そのきっかけとなったのが、5月に開催された「ENHYPEN」のソウルコンサート「BLOOD SAGA」だった。背景には、大手芸能事務所が相次いで導入している「国内ファン先行予約制度」がある。
国内ファン先行予約とは、その名の通り、韓国のファンにチケットを優先的に購入する機会を提供する制度だ。これまではグローバルファンクラブの全会員を対象に一斉に先行予約が行われていたが、現在は日程を分け、韓国国内のファンクラブ会員向け先行予約を実施した後、グローバル会員向けの予約を行う方式が広がっている。
特に、国内先行予約には携帯電話による本人認証が必要となるため、外国人ファンが参加することは事実上難しい。
一部では海外ファンに対する逆差別ではないかとの指摘も出ているが、韓国国内のファンからは好意的な反応が寄せられている。これまで韓国で開催される公演でありながら、肝心の韓国ファンが疎外されるケースが少なくなかったためだ。
特に中国で韓国の文化・芸能活動を制限する「韓限令」以降、現地でK-POP公演を観ることが難しくなった中華圏のファンによる韓国遠征が急増。ソウル公演では海外ファンの割合が急激に高まった。
さらに、潤沢な資金力を持つ中国系のチケット転売組織も参入した。こうした組織がマクロと呼ばれる自動入力プログラムを利用し、ステージ前の良席であるグラウンド席を大量に確保した後、高額で転売。一般の韓国ファンにとって、良席のチケットを手に入れることは、文字通り「絵に描いた餅」となっていた。
〇 なぜ今なのか…転売防止法が変えるチケット予約文化
こうしたチケット転売市場の過熱ぶりは、統計からも明らかになっている。
韓国コンテンツ振興院によると、昨年、「BLACKPINK」「aespa」「RIIZE」「ZEROBASEONE」などK-POPアーティストの公演チケットが、再販売サイトで正規価格の最大51倍にまで高騰して取引される異常な事態が起きた。
3月には、K-POPコンサートのチケットを転売し、71億ウォン(約7億1000万円)相当の不当な利益を得ていた転売組織が捜査当局に摘発された。
芸能事務所がこの時期に韓国国内のファンを優先する方針へと転換した理由は明確だ。業界では、8月28日に施行される、いわゆる「転売防止法」(公演法・国民体育振興法改正案)を見据えた先制的な措置とみている。
法改正によってチケットの不正転売に対する取り締まりが大幅に強化される中、主催者側にも、実際に公演を観覧するファンの手にチケットが渡るよう、販売システムを整備する社会的責任が一層求められるようになったためだ。
また、海外ツアーの拡大によって疎外感を抱いていた韓国ファンに対する優遇策という側面もある。K-POPグループの活動の中心がグローバル市場へと広がるにつれ、韓国国内での公演回数は自然と減少した。
ただでさえ観る機会が限られている韓国公演で、チケットまで入手困難となったことから、芸能事務所は国内ファンが実感できる特典として、先行予約という明確なメリットを提供した形だ。
ある大手芸能事務所の関係者は、ヘラルドミューズに対し、最大の目的はやはり「チケットの不正転売の根絶」だと説明した。
同関係者は「海外でマクロを利用して確保されたチケットが、転売市場へ流れるケースは少なくない。国内ファン向けの先行予約だけで不正転売を完全に防ぐことはできないが、不正取引を減らすうえでは役立つと期待している」と語った。
さらに「ファンクラブの運営という点でも、有料会員により充実した特典を提供する必要がある。海外ツアーが増える中で韓国のファンが疎外されないよう、少なくとも韓国公演では明確なメリットを与えたいという趣旨もある」と付け加えた。
〇 大手芸能事務所が先行…広がる国内ファン向け先行予約
国内ファン向けの先行予約は、大手芸能事務所を中心に急速に広がっている。
「HYBE」傘下の「BELIFT LAB」に所属する「ENHYPEN」を皮切りに、「BIGHIT MUSIC」の「CORTIS」、「SMエンタテインメント」の「Red Velvet」「NCT DREAM」「aespa」、「JYPエンターテインメント」の「Stray Kids」、さらに「YGエンターテインメント」による「BIGBANG」のデビュー20周年コンサートまで、相次いで韓国国内のファンクラブ会員を対象とした先行予約を導入した。
こうした変化は、実際の公演会場の雰囲気にも表れている。
以前よりもチケットを取りやすくなったとの声が上がる中で行われたソウル公演では、観客に占める韓国人の割合が大幅に増えたとの感想が相次いだ。
これまで前方の座席の多くを占めていた外国人観客の割合が減少したことで、会場の盛り上がりにも変化が生まれ、以前はなかなか聞かれなかった韓国語での大合唱も起こったという。
「ENHYPEN」のメンバーもファンコミュニティプラットフォームを通じて、「ソウル公演が終わった直後、代表が『これは韓国でもう一度やらなければならない』と話していた」と明かした。その後、実際にプサン(釜山)公演の追加開催へとつながった。
別の大手芸能事務所の関係者は、ヘラルドミューズに対し、「韓国ファンの割合が増え、応援の声もこれまでの公演よりはるかに大きくなるなど、会場の雰囲気が変わったことを実感した」と語った。
続けて「国内先行予約の対象者は、予約待機の段階から競争率が以前とは異なっていた。チケットの予約環境が改善されたと感じているファンが多いようだ」と説明した。
業界では、国内ファン向けの先行予約制度が当面続く可能性が高いとみている。
ある関係者は「ファンの満足度が高いだけに、一過性の制度で終わることはないだろう」としながらも、「韓国ファンの割合が高いグループもあれば、海外ツアーの比重が大きいグループもある。アーティストごとに状況が異なるため、すべての公演に一律に適用されるかどうかは、もう少し見守る必要がある」との見方を示した。
業界は、転売防止法の施行と国内ファン向け先行予約の導入を意義ある変化と評価している。その一方で、海外にサーバーを置く転売組織などに対しては取り締まりに限界があると指摘し、チケット転売市場が新たな手法へと変化していく可能性にも警戒を示している。
国内ファン向け先行予約制度が定着するのか、また実質的な不正転売防止につながるのか。その真価は、法律の施行後に問われることになりそうだ。
WOW!Korea提供







