イ・ミンギ、キム・ジウォン主演『私の解放日誌』は多くの人の忘れられない作品になった。主人公たちがそれぞれの形で解放されていく姿は希望的なエンディングとなったが、ずっと心に引っかかったものがあった。それは終盤で強烈な印象を残した母親の存在だった。(ネタバレあります)
消えたことで大きな存在感を発揮
『私の解放日誌』は代わり映えしない日常から抜け出したいと願う三兄妹が自由と生き甲斐を求めて奮闘する姿を描いたヒューマンドラマ。隣に住むミステリアスな男ク氏(ソン・ソック)との奇妙な縁によって、各々を縛り付けている「何か」から解放されていく過程を描いている。
三兄妹には昔気質の寡黙な父親とそんな夫に文句も言わず仕える母親がいる。三兄妹はいつも何か不満気で、それを払拭しようともがきながら生きている。そんな姿が中盤まで淡々と描かれるが母親の急逝によって物語は一変する。
13話で突然帰らぬ人となった三兄妹の母ヘスク(イ・ギョンソン)。彼女はいつも仏頂面で淡々と家事をこなし夫と共に畑仕事に出る。そんなヘスクがある日、とうとう夫に思いのたけをぶつけた。
「あなたは箸を置いたら畑や工場に行けばいいけれど私は365日働いて家事もする。教会に行く日は休めたのにそのうち行かせてくれなくなった。また教会に通うから!」
ヘスクよ、よく言った!とドラマを観ながら思った。今までずっと存在感のなかったヘスクにようやく笑顔が見られたのもこの頃だ。長女ギジョン(イエル)の交際相手テフン(イ・ギウ)の姿を一目見ようとデート先のレストランで待ち伏せるヘスク。一目でテフンの人柄を見抜いたヘスクは今まで見たことのない満面の笑みを浮かべる。
一方、ミジョン(キム・ジウォン)が傷心だと知り心を痛めたのも同じ日だった。目立たないながらもいつも家族の身を案じていたヘスク。そんなヘスクがある日、昼寝をしたままあっけなく逝ってしまう。存在感なく生きてきた人が、消えたことで大きな存在感を発揮することになってしまった。ヘスクの笑顔がしばらく脳裏に焼き付いて離れなかった。
ヘスク役を演じたイ・ギョンソンは1964年生まれの現在58歳。舞台俳優として活躍中でドラマは本作が初出演となる。特殊メイクでシミや皺を施し少し疲れた様子の母親を表現した。人工関節が入っている設定だったため立ったり座ったりの演技にも気を遣ったという。「途中で亡くなる設定なのでなるべく抑えた演技をしてほしい」と製作者側から言われたそうだ。確かにヘスクが感情的になったシーンは少なかった。ミジョンの傷心を知ったヘスクが肩を落として歩く姿は背中から悲しさが溢れていて圧巻の表現力だった。改めてイ・ギョンソンという女優の凄さを知った瞬間でもあった。
皮肉なことに、生涯家族のために尽くしたヘスクの亡き後、三兄妹は解放に向かって進んでいくことになる。さらに夫は長男チャンヒ(イ・ミンギ)の勧めで早々に再婚する。正直、腑に落ちない点もある。だが、そういうことも普通に起こり得るのだと淡々と伝えてくる独特の世界観が本作の魅力の一つなのかもしれない。
イ・ギョンソンはかつてのインタビューで次のように語った。「お母さんは水や空気のような存在かもしれませんが、ある日突然離れてしまうかもしれないんです。このドラマは視聴者を勉強させる作品なんです」と。
三兄妹の解放と共にヘスクも我慢と苦労の人生から解放されたのだろう。今はあの世で人生の続きを存分に楽しんでいると信じたい。存在しなくなったことで大きな存在感を発揮した三兄妹の母ヘスク。当たり前の日常は決して当たり前ではない。同じ一生を生きるなら自分自身を解放することも必要だ。ただし、感謝の心は忘れずに。彼女の存在はこのドラマに大きな意味を残した。
文=朋 道佳(とも みちか)
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