俳優チュ・ジフンはとぼけて見せた。バラエティー番組で問い詰めると“強烈なコメント”をトントンと吐き出した。しかし軽くはなかった。
どの地点で雰囲気を転換しなければならないのか、どんな質問に身を入れなければならないのかを正確にわかっていた。他の20〜30代の俳優では見ることのできない自由奔放さと余裕から人間味が加わった。
そんな彼の“おとぼけ”は韓国で5月21日から公開された映画「奸臣」でも見ることができる。チュ・ジフンは、李氏朝鮮第10代国王の燕山君(ヨンサングン)の時代に父イム・サホン(チョン・ホジン)と共に国を翻弄するイム・スンジェを演じる。
劇中全ての人物と関係を結び、ストーリーを展開していく役割もあり、ほとんどのシーンに姿を現す。ラブシーンもアクションシーンもこなした。肉体的にも感情的にも相当のエネルギーを要するものだった。
撮影現場の雰囲気は真剣になる以外なかった。燕山君の時代は「ホンチョンマンチョン」(=「興に乗じて思う存分楽しむ」の意)という言葉が出てくる時代だ。これをスクリーンで再現するために念入りに作りこまれたセットが必要だった。制作費と直結する問題でもある。登場人物の数も多いが、人物たちが持つ狂気を見せるシーンがあちこちに盛り込まれている。
「低予算映画じゃないのか?」と聞き返したチュ・ジフンは「重いシーンでいかがわしい話はできない」とふざけた言い方をした。同じ年代の俳優らと共演した前作「いい友達」で思いきり出した“イタズラ”を本作ではぐっと堪えた。
「ミン・ギュドン監督自身が、現場で俳優の緊張感がない姿に乗り気がしないようです。監督ごとに好みはあり、リラックスするように求める人もいれば、緊張感を求める人もいます。その時々で俳優はカメレオンのように合わせていかなければなりません。一般社会でも同じではないでしょうか。人間関係というのは皆同じようですね。それが生きがいでもあると思います。」たいしたことのないように言ったが、チュ・ジフンとミン・ギュドン監督の縁は格別なものだ。 チュ・ジフンのスクリーンデビュー作「アンティーク‐西洋骨董洋菓子店」で、ミン・ギュドン監督は当時、新人だったチュ・ジフンを主演に抜擢した。
その後、ミン・ギュドン監督が携わる映画制作会社「秀(ス)フィルム」が制作し、ミン・ギュドン監督の妻でもあるホン・ジヨン監督が演出した映画「キッチン〜3人のレシピ〜」、「結婚前夜〜マリッジブルー〜」などにチュ・ジフンは出演した。「秀フィルムの奴隷だ」と気安く冗談が言えるほど打ち解けた関係である。
「偶然与えられた贈り物です。自然にそうなりました。父は厳しく、母は安らかではないのかな。ミン監督は父、ホン監督は母です。ホン監督は『こうしてみようか』と言うタイプなんですが、ミン監督は明確な方向性を示すタイプです。同じような時期にデビューしたホン監督は一緒に作っていこうとする感じですが、ミン監督は黙ってついてこいって感じです。」 「奸臣」の出演も電話一本で決まったという。前作の撮影中だったチュ・ジフンは、ミン監督から「次の作品、一緒にやるか?」と質問された。
タイトルも内容も配役も何も分からない状態でチュ・ジフンは「はい」と答えた。普段はシナリオを読んで決定するチュ・ジフンには異例の選択だった。
「他の方が寂しがるかもしれない」と言ったが、そのくらいミン・ギュドン監督に対する信頼と愛情が寄せられていることが分かるエピソードだ。
劇中チェホンに選抜された女性たちは、王に選ばれるたった一つの席「フンチョン」に上がるため、様々な訓練を受ける。視覚的に圧倒されるシーンで、チュ・ジフンは上半身を露出した30名の女優の中にいる。
撮影時には多少恥ずかしくなるシーンだった。不要な誤解を避けたがったチュ・ジフンは、下だけを見ていたという。 「韓服は弾力がなく流れ落ちてしまうため、何度も直さなければならなかったんです。初めはそっと服を上げていたんですが、段々と私を気に留めなくなりました。『私が男に見えないだろうが、少しぐらい気を使ってくれないか』と言うくらいでした(笑)。彼女たちが『奸臣』の事実上の主役でした。そのような服装で真冬に長い時間撮影をしました。低体温症になって倒れる方もいらっしゃいました。」 実際に妹をもつチュ・ジフンは、イム・ジヨンなどのように自分より年下の女優には自然と気遣った。自分のカイロを渡したり、スタッフに毛布をもってきてもらうよう頼んだりした。「とにかく若くてご飯もまともに食べられず、寒い中苦労した」という彼の言葉に、気の毒さを感じた。
映画「奸臣」に続き、もうじき韓国で放送されるSBSの新ドラマ「仮面」まで、まさに縦横無尽だ。ただ今まで出演した映画のうち、興行成績があまりよくないのが残念だ。
チュ・ジフンにとって興行成績とは何かを尋ねた。 「以前は考えたこともなかったのですが、昨年初めて考えました。以前は僕がやりたいことだけに集中していたけど、映画で興行成績は重要です。僕がやりたいことだけをすることができるきっかけになると思うからです。僕ができることは決まっています。その中で一生懸命やろうと思っています。」 愉快な中にこめられたリアリティー、それがチュ・ジフンの力だと感じた。
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