●現実はドラマを超える?スクールカースト、貧困、入試…社会が抱える3つの問題
社会派ミステリーともいえる本ドラマは、幾つもの韓国社会が抱える問題を浮き彫りにする。①スクールカースト、②子どもの貧困、③不公正な入試と学校教育の危機などである。
①のスクールカーストは、名門私立高校が舞台だけに、カースト上位にくるのは、政治家、弁護士、銀行頭取、事業家といった有力な親を持つ、裕福な家庭の生徒たちである。最底辺は「社会配慮者選考」と呼ばれる特別枠で入学した、貧困家庭や児童養護施設の生徒たちだ。教育の機会均等を目指して導入された制度だが、実際にはドラマのストーリーのように陰湿ないじめに遭うことが多いという。
②の子供の貧困問題は日本でも深刻だが、ドラマでは児童養護施設出身の生徒が2人登場する。1人は何者かに殺される。もう1人は彼女を殺害した嫌疑をかけられ拘束される。こうした児童養護施設で育った者が、ヒロインや重要な役どころで登場するドラマが韓国では実に多い。例えば最近のものでは、「梨泰院クラス」「椿の花咲く頃」「スタートアップ:夢の扉」がそうだ。本ドラマでも、スーパーエリート弁護士である主人公キ・ムヒョクは、実は児童養護施設で育った人物だったという設定であった。
③の不公正な入試と学校教育の危機は、親の圧倒的な資本力や情報力で大学入試の合否が決まるという極めて不公平な現実がある。ちなみに韓国では、受験を制する条件は「母親の情報力、父親の人脈、祖父の経済力」という。日本では韓国の大学入試というと遅刻しそうな受験生をパトカーで会場まで送り届ける「大学修学能力試験(日本でいう共通テスト)」による一発勝負のイメージが強いが、実際にはペーパーテストによる選考はおよそ2割にすぎない。大学進学者の実に8割は、高校の成績と学校内での活動成果(学内大会の賞歴やサークル活動など)を記した学習履歴などで合否を決める「随時選考」(AO入試)と呼ばれる方式で選抜されている。ここに不正が入り込む余地があるのだ。
劇中の名門高校でも、教員たちが有力な親を持つ一部の生徒にたいし、「随時選考」に有利になるようにと、日本ではとても考えられないような「特別措置」を採っていた。いったいどうやって?どんな手口で?と気になった方は、是非ドラマを観てほしい。ドラマの脚本は高校の実態調査を重ねて書かれたというだけに、リアリティ満載である。決して誇張されたものではないことは、実際に毎年複数の高校が摘発されていることからもわかる。ただ、明るみに出るのは氷山の一角で、保護者の悪事や教員の不正は、ドラマよりも現実のほうがもっと巧妙で強烈である。つまり、現実がドラマを上回っているのだ。
執筆:春木育美(社会学者)
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