黒幕の一人
正祖が処罰すべきかどうかで悩んだ相手が祖母でした。この祖母というのは、英祖の二番目の正妻だった貞純(チョンスン)王后のことです。
英祖は最初の妻だった貞聖(チョンソン)王后が亡くなったあとに51歳も若い妻を迎えていて、それが貞純王后です。
彼女は思悼世子を追い詰めた黒幕の一人になっていました。
正祖としても、ぜひとも父の怨みを晴らしたかったでしょうが、儒教社会では祖母を簡単には処罰できません。
「孝」にそむく行為の最たるものだからです。
王になってすぐにそういうことをしてしまえば、一気に人望を失ってしまったでしょう。しかも、貞純王后も断食をして処罰を逃れようとしていました。そのしたたかさは並ではありません。
「父親の無念を晴らすために処罰したほうがいいのか、それとも長幼の序を守って不問にしたほうがいいのか」
正祖は悩みますが、結局は処罰しませんでした。これが、正祖にとって命取りになってしまうのですが……。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
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