暗行御史参上!
実は、夢龍は科挙に合格し、役人の不正を秘密裏に取り締まる暗行御史(アメンオサ)になっていた。全羅道の担当になった彼は、わざと物乞いの服装で世情をうかがい、春香の危機を知った。
その頃、学道の誕生日を祝う宴が開かれた。夢龍はその場にまぎれこみ、酒の余興として学道を批判する詩を披露した。
夢龍の本性を知らない学道は激怒するが、夢龍は「暗行御史参上!」と叫び、その場で学道を解任した。
さらに、夢龍は学道の横暴によって罪人にされた人々を解放すると、春香を自分の前に連れてこさせた。夢龍は頭を下げたままの春香に向かって、罪を許す代わりに自分と肌を交えろと命令する。
しかし、夢龍だと気づかない春香は、断固として拒否した。
あくまでも純粋な愛を貫く春香。夢龍は彼女の献身さに胸を打たれ、ようやく自分の素姓を明かした。権力に屈することなく貞節を守った春香。彼女の一途な愛はこうして報われたのである。
この物語は、厳しい身分制度や傲慢官僚の悪政に苦しんでいた庶民の喝采を浴びた。これほど胸がすく勧善懲悪は他になかった。
それは、現代でも同じだった。どんなに苦しくても、ドラマや映画で『春香伝』を見れば、人々は明日という日を信じることができた。誰もが、最後まで裏切らなかった春香の姿に、人間が守るべき真心を見たのである。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
コラム提供:ロコレ
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康熙奉(カン・ヒボン)著『いまの韓国時代劇を楽しむための朝鮮王朝の人物と歴史』(実業之日本社)
康 熙奉(カン ヒボン)
1954年東京生まれ。在日韓国人二世。韓国の歴史・文化と、韓流および日韓関係を描いた著作が多い。特に、朝鮮王朝の読み物シリーズはベストセラーとなった。主な著書は、『知れば知るほど面白い朝鮮王朝の歴史と人物』『朝鮮王朝の歴史はなぜこんなに面白いのか』『日本のコリアをゆく』『徳川幕府はなぜ朝鮮王朝と蜜月を築けたのか』『悪女たちの朝鮮王朝』『宿命の日韓二千年史』『韓流スターと兵役』など。
最新刊は『いまの韓国時代劇を楽しむための朝鮮王朝の人物と歴史』。