韓国で1100万人以上の観客動員を記録し、海外でも「第69回カンヌ国際映画祭」を筆頭に、世界各国の映画祭で喝采を浴び、ハリウッドリメイクも決定したノンストップ・サバイバル・アクション「新感染 ファイナル・エクスプレス(以下、「新感染」)」。
日本の新幹線にあたる韓国の高速鉄道KTXの車内で、ウイルス感染パニックが発生。“時速300キロで疾走する密室”が一瞬にして、逃げ場なき地獄と化す壮絶な極限状況のなか、主人公のソグ(コン・ユ)&スアン(キム・スアン)親子、妊娠中のソンギョン(チョン・ユミ)&サンファ(マ・ドンソク)夫婦、野球部の高校生ヨングク(チェ・ウシク)&ジニ(アン・ソヒ)カップルらが力を合わせ、愛する者を捨て身の覚悟で守り抜こうと奮闘する姿が、スリルと興奮、感動のカタルシスを呼び起こす。
演出を手掛けたのは、韓国アニメ界を代表するクリエイターで、国内外で多くの受賞歴を誇る新鋭ヨン・サンホ監督。実写初挑戦となった本作で、ダイナミックな映像感覚と繊細かつドラマチックな語り口を披露し、作品を成功に導いたヨン・サンホ監督が、9月1日(金)からの日本公開を前に来日し、「新感染」の制作秘話や作品に込めた思いなどを熱く語った。
-もともと「新感染」では、父と息子の物語を作りたかったそうですが、どうして父と娘の物語になったのでしょうか?
「新感染」を制作するにあたって、コーマック・マッカーシーの小説で、父と息子の関係を軸に、終末を扱った「ザ・ロード」をモチーフにしたんです。巨大なテーマなんですが、違う世代同士の物語でもあって、次の世代に何を受け継いだらいいのか、ということが描かれていたので、「新感染」でもそういう世代論を描きたいと思い、その象徴的なものとして、父と息子の物語を考えていました。
ところが、男の子の子役がなかなか見つからなくて…。以前、短編映画祭で審査員を務めたとき、キム・スワンを見て、いいなと思い、彼女のことがずっと頭にあったので、打ち合わせを兼ねて、オーディションをしたんです。そこで、映画の最後に出てくる「アロハ・オエ」の歌をこういう感情で歌ってほしいと説明して、歌ってもらったら、イメージとぴったり重なったので、キム・スワンを使いたいと思いました。最初は男装させようかとも思ったんですが、それはさすがに失礼に当たると思い、設定を父と娘に変えました。
-監督はこれまでのアニメでも家族愛を描かれていますが、今回も家族愛をミックスさせたのはどうしてでしょうか?
家族と一言で言っても、温かい家族もあれば冷たい家族、お互いを憎み合っている家族など、いろんな形の家族があって、人間が経験しうる最小限の社会が家族だと思うんです。だから、社会性も描けるし、社会と対比する別のものも描けるので、“家族”は適したモチーフだと思います。今回の「新感染」は商業的な映画で、予算も大きかったので、家族を扱う、というのも大切だと思いました。
「新感染」の前日譚となる長編アニメ「ソウル・ステーション パンデミック(以下、「ソウル・ステーション」)」では、ホームレスや家出をした少年少女たちが登場し、家族のいない人たちが家を探すという物語で、父親との関係が非常に大切なキーになっていました。「新感染」とは表裏一体で、表と裏を描くという企画でもあったので、「新感染」では家のある家族の物語を中心にしたいと思い、家族愛を描きました。
-今回、ゾンビを素材にし、「新感染」で描きたかったものとはどういうものですか?
KTXにはソグやヨンソクのような、普通の人がたくさん乗っていますが、誰でもそういう状況になったら、悪にも善にも変わる、ということを伝えるのが大切だと思いました。先ほども世代の話をしましたが、世代を象徴するような人物もたくさん出てきます。序盤、おばあさん姉妹がニュースを見ながら、違う反応を見せるんですが、それは相反するイデオロギーがあるという意味を込めているし、10代の少年少女たちが、大人から搾取されている、という社会の一面も盛り込んでいます。
今回、ゾンビ映画を撮るにあたって、ゾンビ映画の本質を考えました。いわゆるスプラッタームービーの代名詞がゾンビ映画だと言われるんですが、僕は根源的な恐怖について考え、ゾンビに関する恐怖は大きく2つあると思いました。1つは愛する人が全く違う存在に変わってしまう、ということに対する恐怖と、もう1つは自分自身が別の存在に変わってしまい、愛する人を攻撃したらどうしよう、という恐怖です。なので、「新感染」では血が飛び散るようなスタイルは排除し、ポイントを恐怖にしぼって、それを強化して描きました。
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