<Wコラム>500円タクシー料金とK-POPアイドル、韓国旅客船沈没事故と日韓の交通運送文化

<Wコラム>500円タクシー料金とK-POPアイドル、韓国旅客船沈没事故と日韓の交通運送文化

初乗り500円の「ワンコインタクシー」を営業する大阪の「ワンコインドーム」社。「値上げの強制で重大な損害が出ている」として、国を相手取り、訴訟を起こした。運賃の変更命令や車両の使用停止命令を出さないよう求めたとのこと。

大阪府では過当競争の是正などを目的に国が定めた公定幅運賃(大阪府内で初乗り660円〜680円)が4月から義務化されたことで、このような行政と業者間の騒動は今後も続くとみられている。

確かに、日本を含め、資本主義を選んだ多くの国の法律では「営業の自由」が保証されている。後発業者として薄利多売と低価格を戦略とする業者側の言い分は理解できる。利用者である国民にとってもタクシーの低料金化は歓迎したいところだ。

しかしながら、他のサービス業とは違って、交通・運送・通信などのインフラ系のサービスは国全体の運営にも関係する重大問題でもあるので、行政としては介入したい所である。

国内では司法の判決を待つしかないが、視線を海外に移してみよう。69年前は日本の一部として、全く同じシステムで動いていたお隣の国。69年間、ひたすら日本をマネしながらも、日本をマネているとは言えない国。つまり、同じ文化の遺伝子を持ちながら、69年間の進化はまったく違った国、「韓国」の場合だ。

韓国ソウルでは、昨年タクシー料金の値上げが実施されたばかりだが、それでも初乗りは3000ウォン(約300円)以内をキープしている。距離間料金は142メートルごとに100ウォン(約10円)。料金が妥当かどうかは、その国の社会環境とも関係するので、何とも言えないが、韓国のタクシー料金は「ワンコインドーム」社が主張する「初乗り500円」よりも安い水準である。

とにかく日本に比べれば異常なほど安いレベルだが、韓国ではタクシー料金の安さがもたらす弊害も度々指摘されている。中でも運転手側の収入が少ないので、マナー違反など、お金のためなら何でもやってしまう個人タクシーが増え、韓国の道路交通文化のイメージを失墜させているとの声が大きい。

一方で、タクシーをあたかも自家用車のように1日数時間も乗り回している人たちもいる。

例えば、K-POPアイドルを追っかけまわる「サセンペン」(私生ファン=私生活を追っかけるファン)と言われるファンだ。日本でもジャニーズに付きまとう「ヤラカシ」の存在はいるが、韓国の「サセンペン」にはタクシー料金の安さという強力なツールをフル活用している。

目当てのアイドルのコンサート会場などで出待ちをし、個人タクシーに乗って彼らのバンをどこまでも追跡してしまうのだ。中には「サセンペン」を専門に運ぶタクシー・ドライバーもいるようで、通称「私タク」と呼ばれている。もちろん「サセンペンタクシー」の意味だ。

ソウルの中心街では信号無視や割り込み運転、高速道路では時速160kmを超えるレーサー級の運転も彼らにとっては当たり前。追跡の出来具合で料金が上下することもあるからだ。

K-POP界を代表する人気アイドル「JYJ」のジェジュンの場合は、実際にこの「私タク」による追っかけ行為などがきっかけで、自身のSNSでは、「タクシー宣伝のために『ジェジュンを見つけたよ』とファンにウソをついたり、1日中アイドルを捜しまわりながらファンに結果を報告したりする悪質なドライバーもいる」とコメントしたこともある。

さらには、「サセンペンの中には、僕らの顔を近くで見たいがために、タクシーに乗ってわざと接触事故を起こした人もいる。」と暴露したアイドルもいる。

ある芸能事務所の関係者も、「『私タク』の存在がまだ幼い『サセンペン』たちの行動をエスカレートさせている。ソウルだけで100人を超える悪質なドライバーがいると思われる。未成年者がほとんどであるアイドルファンに寄生するドライバーたちを取り締まるべきだ。」と明かした。

そんな中、ある「私タク」のドライバーは、「良くない行為とは分かっているが、5時間で20万ウォン(約2万円)ももらえるので、なかなか断れない。」と現状に甘んじている様子。

戦後の韓国は急速な経済発展の中、「急げ急げ」と「安く安く」がモットーになった。その代わり、戦前に伝わっていた「ゆっくりでも確実に」の日本文化は大部分「日本の残滓」としてタブーになってしまった。この69年間の韓国には必要な方法だったかもしれない。同じ69年間、日本の社会文化は「コストがかかっても安全と安心」がモットーになっている。

今回の韓国旅客船の沈没事故でも、「韓国の交通運送文化はまだまだ先進国とは程遠い」、「日本から『安全と安心』を習え」などの声が出て来ている。しかし、日本の交通運送文化は、韓国が得意としてきた「安く」の問題に直面している。日韓両国の文化は、相手側を見ながらバランスをとっているかもしれない。

K-POPアイドルとサセンペンたちの攻防は今日もどこかで繰り広げられている。そして、韓国旅客船沈没事故の原因究明は、船長個人から運航会社や新興宗派に拡大し、学校や修学旅行に、警察や軍隊に、行政や大統領までにと拡大しつつある。しかし、その背景は、戦後69年の韓国文化、安全より効率を重視してきた社会システムにある。いわゆる「戦犯」である船長は、奇しくも69歳だ。

2014.05.02

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