『哭声/コクソン』大ヒット中!ナ・ホンジン監督オールナイト 松江哲明監督らトークショー

ナ・ホンジン監督オールナイト トークショー
【日時】3月18日(土) 23:00~23:30終了/『哭声/コクソン』上映後
【会場】シネマート新宿 スクリーン1(東京都新宿区新宿3丁目13−3 新宿文化ビル6F)
【トークショーゲスト】松江哲明監督、岡本敦史さん(映画秘宝編集部)、山崎圭司さん(映画ライター)

山崎氏は「公開前、韓国でこの映画が大ヒットして羨ましいねって話をしてたんですが、日本でもヒットして素晴らしいです。自分が作った訳じゃないけど(笑)」と切りだす。この日にシネマート新宿で本作を見直したという松江監督は、「過去の2作品ともすごく好きなんですが、最初に『哭声/コクソン』を観た時にまず思ったのは、“この人は前の2作で本領を発揮してなかったんだな”ということでした。それまでの2作を通じての印象は、韓国の実録犯罪系、韓国ノワールの中で犯罪者の気持ちを伝えてくれるヤバい映画を作るというものだったんですがが、この映画を観た後で2作品を見直したら印象が全く変わってしまったんです。この人はもしかしてデヴィッド・リンチをやりたいのかな?って。それでナ・ホンジンはこの後のキャリアをどうするんだろう?と。「ツイン・ピークス」みたいにおかしな映画ばっかり作っていくのかなって想像してしまいます」と語った。

岡本氏は、「『哭声/コクソン』と前の2本で描かれることは全く違うけど、改めて見直すとこの映画に受け継がれる要素がここにあるんだなというのが見えてくると思います」を語る。松江監督は、3作品に共通して人を殴る道具にとても“イヤなもの”を使っていると指摘し、「『哭声/コクソン』で襲撃に行くための道具をトラックの荷台に詰め込むのにチェーンソーとかハンマーは分かるけど、なんで“牛の骨”を入れるんだと(笑) 『哀しき獣』でも牛骨でボコボコにするというのがありましたけど、あれは画期的でいいですよね」とトリビアともいえる共通点を明かした。

岡本氏が「クリスチャンであるナ・ホンジンには宗教というはっきりとしたテーマがあって、今まではあまり見えなかったけど、『哭声/コクソン』ではっきり描かれたことでそれが明確になりました」と語ると、松江監督は、「『殺人の追憶』とか『カエル少年失踪殺人事件』みたいな未解決事件モノなのかと思って『チェイサー』を観てたんです。でも『哭声/コクソン』を観たことで、韓国社会がどうこうというのを超えて、人間が生きていく上でどうにもならないことがあるという“不条理”そのものをぶつけてくる。人間というのはそういうものなんだという絶望を肯定していて、この監督には困ったな・・・と思ったんです。そして『哭声/コクソン』で神の視点にまで行ってしまった。この映画を観て2作品の印象が変わってしまったというのはそこなんです」と具体的に語る。

岡本氏は、「この人は別に悪いことをしている訳じゃないのになんでこんな災難に遇わないといけないのか、どうすれば救われるのかというのは敬虔であればあるほどなぜだと考えてしまうと思うんです。その挑戦が映画を撮るごとにどんどんエスカレートしていくのは、ウィリアム・ピーター・ブラッティ(「エクソシスト」原作者)に似てますよね。彼はそんな問いかけをし続けて自分を傷つけるような作品をずっと作ってきました」と語る。

山崎氏は、『哀しき獣』公開時に監督が語ったこととして、監督はハードボイルドな映画が大好きだといい、見終わった後に男がタバコを1本吸ってため息を付けるような映画が作りたいんです!とプロデューサーに熱弁したというエピソードを明かす。松江監督は、「神様がいるかもと思う人は、悪魔もいるはずだと考えがちですよね」と返しつつ、「でもこの映画を観る限り、作った人が神様を信じているようには見えないですけど(笑)」とツッコミを入れた。

松江監督は、「こういう映画は観た後にあれこれ正解を探したくなるけど、正解を見つけたら負けのような気もするんです。僕もドキュメンタリーを作っているので、ドキュメンタリーは特に人間の感情で動いていくから整理整頓しきれないところがあるというのは分かります。その中でもギリギリ物語としては伝わるなというものを見つけて、編集して作るのがドキュメンタリーの編集です。『哭声/コクソン』は、國村隼さんとかスターが出てるからどうしてもそこで観てしまうけど、どこか整理整頓のポイントなのかとキャラクターを追いかけてしまうと、つじつまが合わないんです」と観方のヒントについて語る。さらに、「何回か見直す中で、逆に僕がこれだ!と思ったのは“健康食品”です!もうそこしか信じないぞ、と(笑)」と新たなる解釈を披露。

岡本氏は、「観るたびに解釈がどんどん変わっていくんですよね。人に話を聞いても話を聞いているうちに気付きもあるかもしれないし」と付け足す。山崎氏は、「主人公のジョングをとりまく人達の言ってることには惑わしがあって、言ってることは両極端でありながらひとつであるとか、なかなか小癪だな・・・と」と付け加えた。

松江監督は、「作り手として、自分達の言うことを余り信じてくれるなよという想いがあるんです。僕が好きなのは、作り手もよく分からないけど観客を通してコミュニケートしたいという狙いが伝わる作品で、『哭声/コクソン』もそういう映画だと思います。だから、この映画がヒットするのは素晴らしいことで、だからこそ監督は正解を言っちゃいけないし、観る側を試すというか“考えろよ”というのは映画に限らず生きていく上でもすごく大事だと思っています」と持論を語った。山崎は、「この映画のきっかけになったという監督が経験した近しい人の死について真面目に考えて、2年にも渡る緻密なリサーチを経て、作った映画がこれっていうこの娯楽魂はすごいものがありますよね」と返した。
その他、『チェイサー』や『哀しき獣』の製作秘話やネタバレ全開トークや監督の人となりなど、たっぷり話が繰り広げられた。

<STORY>
平和な田舎の村に、得体の知れないよそ者がやってくる。彼がいつ、そしてなぜこの村に来たのかを誰も知らない。この男についての謎めいた噂が広がるにつれて、村人が自身の家族を残虐に殺す事件が多発していく。そして必ず殺人を犯した村人は、濁った眼に湿疹で爛れた肌をして、言葉を発することもできない状態で現場にいるのだ。事件を担当する村の警官ジョングは、ある日自分の娘に、殺人犯たちと同じ湿疹があることに気付く。ジョングが娘を救うためによそ者を追い詰めていくが、そのことで村は混乱の渦となっていき、誰も想像てきない結末へと走り出す―

監督:ナ・ホンジン
出演:クァク・ドウォン、ファン・ジョンミン、國村隼、チョン・ウヒ
2016年/韓国/シネマスコープ/DCP5.1ch/156分


©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION
公式サイト:http://kokuson.com/ 公式Twitter:@ kokuson_movie 公式Facebook:https://www.facebook.com/kokuson0311

2017.03.22