私が軍隊に行ったのは三十年以上前です。まず訓練所に入りますと、社会との断絶を促すため、バリカンで頭を丸坊主にされます。なるほど坊主になるとみんな同じになり、間が抜けた顔になっていました。それに軍服を着せられるので、さっきまでの個性豊かな社会人の姿はどこにも見当たりません。我々を訓練する上官は我々よりも年下ですが、丸坊主の没個性の新兵姿でなければやりにくかったに違いありません。
訓練所での第一の難関は食事でした。古いお米とあわで炊いたご飯は臭い匂いがして食べられたものではありませんでした。
おかずもキムチと魚ぐらいだった入所初日は大半が食べ残しました。ところが、翌日の朝早くから夜までびっしり詰まった訓練はおなかをすかしては持ちこたえられないほどでしたので、その夜の食事からは臭いの何のと文句を言う人は一人もおらず誰か残した者はいないかキョロキョロするほどで、一日でこんなに人間が変わるのかと驚きました。
ご飯にスープは付き物ですが、そのスープといったら菜っ葉に塩を振った味気ないものでした。夜食堂からインスタントラーメンのスープの素を盗んできてお汁に少しかけただけで味がガラッと変わったように感じるものですから不思議ですね。社会にいたときは見向きもしなかった粉末スープの素がこんなに貴重だとは……。
週末にインスタントラーメンが特別メニューとして出るのが待ち遠しいほどでしたので、現実の社会では考えられないことでした。
我々の時代はそうでしたが、今の若者は豊かになったせいか、いかに兵士に食べさせるかが大隊長の悩みだそうです。
今の若者はキムチを食べたがらず、ハンバークなど洋食を好むようです。昔はそのような料理がなくて食べられなかったのに、今はいかに食べてもらうかが軍の悩みだそうです。時代が変わったことを実感させられました。
訓練所に入ると、上はヘルメット、帽子から、下は靴まで支給されます。もちろん銃も。この一式が夜の点呼のときに揃ってないと罰を受けるので、みんなは必死に管理しますが、確か四百人近い人が共同生活するのですからよくなくなります。そのうち一番なくなるのが帽子です。夜、点呼のときは一つでも備品がなくなっていたらその当事者はもとより小隊全員で連帯責任を取らされますので、必死に点呼までに揃えておかなければなりません。
ではなくしたときはどうするか。
トイレで解決します。
軍隊のトイレは内から鍵をかけられなくしてあります。つまり鍵がありません。訓練がつらくトイレに逃げ込んだり、自殺することを防ぐためです。どうするかというと、帽子をなくした二等兵は用を足している兵士がしゃがんでいるうちにドアを開け頭の帽子を素早くひったくり逃げるのです。ズボンを下ろししゃがんでいるので追っかけて来ようがありません。常にこの手が成功するとは限りません。なぜならトイレでしゃがんでいると帽子を盗まれるので、外から開けられないように取っ手をつかんで用を足します。盗もうとした兵士は簡単に開かないので強く引っ張ると、内で取っ手を握りしゃがんでいた二等兵はしゃがんだまま外に放り出されます。その恰好を想像してみてください……。
文=権 鎔大(ゴン ヨンデ)
出典=『あなたは本当に「韓国」を知っている? 』(著者/権鎔大 発行/駿河台出版社)
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