牡丹の花には香りがない
善徳女王がいかに聡明であったかを物語るエピソードがある。それは、まだ徳曼が王になる前の話だった。
中国から牡丹の花の絵と種子が送られてきたので、父親の真平王は、娘の徳曼に喜んで見せた。
すると彼女は、牡丹の種子を見ながら「この牡丹の花は美しく咲くでしょうけど、きっと香りがないはず」と言った。
真平王は娘が変なことを言いだすので、笑ってしまった。
「なぜ花に香りがないとわかるんだ」
真平王がそう尋ねると、徳曼は堂々とこう言い切った。
「まず、牡丹の花の絵をご覧ください。この花に蝶がまったくいませんよね。たとえば、すてきな美人であれば、男性が次々に寄ってくるでしょうし、美しい花に香りがあれば、蝶や蜂が寄ってくるものでは……。この花を見るかぎり、いくら美しくても蝶や蜂がまったくいませんから、たぶん、香りがないのでしょう」
そう言われて父親の真平王も半信半疑だったが、実際に牡丹の種子を蒔いてみると、花には香りがなかった。
まさに徳曼の言うとおりになったのである。
この話が広まると、誰もが「いったい彼女はどれだけ頭がいいのだろうか」と大いに感心した。(3ページにつづく)