最近は、韓国ドラマの中でも女性の揺れ動く心情を丁寧に描いている不倫ドラマが増えているような気がします。マクチャンドラマといわれるドロドロの愛憎劇も相変わらず多いですが、チ・ジニ、ハン・ヘジンが主演した『温かい一言』のように、日常のふとしたところにある危険な恋を女性視聴者の目線に合わせて作られているドラマが多く見受けられるようになりました。オム・テウン、イ・シヨン主演の『一理ある愛』もそのような作品の一つだといえるでしょう。
リアリティを感じる仕上がり
『復活』『善徳女王』などで、カリスマな演技力を誇ったオム・テウンが、このドラマではイメージを一新し、妻に浮気をされる弱々しい夫を見事に演じています。そして、その一見弱々しく見える夫が大人の男の包容力を見せたとき、オム・テウンの魅力がキラリと光り、安定感のある演技に魅了されます。
この作品は『私の名前はキム・サムスン』や『きつねちゃん、何してるの?』の脚本家キム・ドウが手掛けていますが、これらのようなコミカルなイメージとは全く異なる雰囲気です。思わず笑ってしまうような場面が随所にあるわけではなく、号泣必至のシーンも正直それほど印象に残っていません。
それでも、このドラマに引き込まれてしまうのは、現実に起こりうるかもしれないほのかな恋愛と、家族の介護問題、夫婦の心のすれ違いなどが、静かに淡々と寄り添うように描かれているからなのかもしれません。
また、女性視聴者の目線に立ってはいるものの、ナレーションはオム・テウンが担い、男の心情を淡々と伝えてくるところが、よりリアリティを感じる仕上がりになっているように思います。
3人の恋愛模様
この物語は、臨時教師と女子高生という関係で初めて出会ったヒテ(オム・テウン)とイルリ(イ・シヨン)が結婚しているところから始まります。
夫婦となって幸せな日々を送っていたある日、ペンキ職人として働いていたイルリは家具職人のジュン(イ・スヒョク)と知り合い、お互いに惹かれていきます。しかし、ヒテが2人の関係に気づいてしまい、そこから3人の恋愛模様が繰り広げられていくことになるのですが……。
このタイトルにもあるように、“愛にはすべて一理ある”というのがこのドラマの最も伝えたいメッセージなのでしょう。
どんなに愛し合って結婚しても、ときには心がすれ違ってしまうこともあるのが夫婦なのかもしれません。
病気の義妹の介護を献身的にしているイルリは、傍から見てもよい嫁でよい妻です。決して夫に不満があるわけではなく、幸せに暮らしています。
それでも、ある時ジュンと出会い、夫が気付いてくれなかった部分を気付いてくれるジュンに対して、抱いてはいけない気持ちを抱くようになります。この辺りは見ていてドキドキさせてくれるシーンが満載で、若くて逞しいジュンに惹かれていくイルリの気持ちが手に取るようにわかります。
わかっていない夫
「いったい俺が何をしたんだ!?」
「俺のどこが悪いんだ!?」
と、ヒテは嫉妬にかられながら、悩みます。
イルリは一言、「あなたにはわからないわ」と言い放ちます。
そう、悪いのではなく、わかっていないのです。
まじめで誠実で何一つ悪いところもない夫、しかもやさしい。
ただ、“わかっていない”ということをわかってないのです。
男性の皆さんは“なんじゃそりゃ!?”と言いたくなるかもしれませんが、女性としては、よく理解できる部分なのではないでしょうか。
この作品の中では、3人の恋愛模様の他に、義母の認知症という大きな題材があります。ヒテの母親が認知症になり、あらぬことかジュンを若き日の夫だという錯覚に陥るようになってしまいます。
そして、自分の夫の姿を見ても“よそのおじさん”にしか見えないのです。医者は「ご主人を認識できないのは、何か思い出したくないほど記憶から消したいことがあるからなのでは……?」と言います。
すべての愛には一理ある
若い頃から女性問題で苦労をさせられたことをヒテの母親は忘れたかったのかもしれません。愛する夫と出会った若き日の思い出に酔いしれて幸せを感じているシーンは、見ていて身につまされるほどせつなくなってしまいます。
ヒテの母親が認知症の検査を受けた帰り、一つの詩を暗唱するシーンには何とも言えない寂寥感を感じました。
私の人生に秋が来たら、自分に尋ねたいことがあります。
私は私に多くの人を愛したかと尋ねるでしょう。
その時、躊躇せずに答えるため、私は今、多くの人を愛したいと思います。
これは韓国でとても有名な詩の一節です。
人生には多くの愛があって、すべての愛には一理ある。
このドラマはとても静かに、そんなことを伝えてくれたような気がしました。
文=朋 道佳(とも みちか)
コラム提供:ロコレ
http://syukakusha.com/
朋 道佳さんのblog「本日も幸せ日和」はこちらhttp://ameblo.jp/tomo-m358/