「コラム」過ぎた日々が宝物に思えるドラマ『応答せよ1988』

53ad5fe76b27a2b972a74d35edec9815
毎回韓国で大きな社会現象を引き起こす“応答せよシリーズ”の雰囲気は独特です。『応答せよ1997』でブームを巻き起こし、二番煎じと危ぶまれた『応答せよ1994』も予想外の大ヒット。そして、三度目の正直『応答せよ1988』は韓国放送通信委員会が主催した放送大賞で最優秀賞を受賞するほどの素晴らしい作品となりました。

 

温かいドラマ

“応答せよシリーズ”には韓国ドラマにありがちな、手の届かないような御曹司や復讐劇、事故や記憶喪失もほぼ出てきません。

描かれているのは、ごくごく平凡な人たちのどこにでもある日常です。

だからこそリアリティがあり、誰の心にも共感し得る“何か”を見つけ出すことができるのです。

それが、三度目の正直でも大成功を収めることができた要因なのかもしれません。

『応答せよ1988』はソウルオリンピックが開かれた1988年を舞台に、ソウル道峰(トボン)区の双門洞(サンムンドン)に暮らす5つの家族の物語を描いたドラマです。友達とふざけ合った思い出、父や母のぬくもりや、実らなかった恋、かつて経験してきた遠い日の記憶はどれだけみなさんの心の中に残っていますか。

そして、私たちは日々の忙しさに追われ、いったいどれだけのことを忘れて生きているのでしょう。

『応答せよ1988』は私たちが過去に置き忘れてきた懐かしい記憶をゆっくり思い出させてくれる温かいドラマです。

 

人の心はあの頃のまま

中でもヒロインであるトクソン(ヘリ)と結婚したのは誰か?

それを予想をしながら見ていくのがこのドラマの最大の見どころでしょう。

このパターンはかつての“応答せよシリーズ”にもありますが、今回もワクワクの展開で、チョンファン(リュ・ジュニョル)なのかテク(パク・ポゴム)なのか、韓国でもファンの間で物議を醸しました。

演じている俳優陣にも誰がヒロインと結ばれるのかを知らされないまま撮影が進んでいたようです。

韓国ドラマ界は、ときどき本当に驚くようなことをしますね。

そして、ドラマ中では、主人公以外の恋愛にも目が離せません。

携帯電話もなかったあの時代、ただ待つことしかできなかった恋人たち。

「さよなら」という手紙を受け取ったら、もう二度と会うこともできなかったあの頃。

どんなに時代が進化しても、人の心はきっとあの頃のまま。

人の心までデジタル化することなどできるはずがありません。

それは、親と子の関係でも同じです。

昔のように狭い部屋で肩寄せ合って暮らす時代ではなくなったかもしれませんが、外で受けた傷を癒してくれるのはやっぱり家族なのかもしれません。

「感謝してます」「愛してます」と言葉で言い表すのは照れくさくてできないけれど、親は子を思い、子は親を思っているのです。

『応答せよ1988』では、そんな温かい家族愛がたくさん描かれています。

 

言葉には魂が宿る

美味しくないお弁当を作る母親を悲しませまいと、家に帰る前に残ったお弁当を無理して完食する息子、大手術をしたにも関わらず麻酔から覚めたときに自分より弟の体を思いやる兄。家族や大切な人を思いやる場面を見ると、心がほんわか温かくなり、涙をぬぐわずにはいられません。

「言葉には魂が宿る」

だからたった一言でも体温を感じるのです。

冷たい言葉が行き交うネット社会でも、人の体温が維持できるのは、立派な名言や、鋭い毒舌でもない、あなたの不器用な真心のこもった温かい一言です。

ドラマの中で、このナレーションには最も感動しました。

家族や大切な人には、LINEやメールではなく、ときには直接温かい一言を伝えることが本当に大切ですよね。

やはり、人の心はアナログなのです。

“応答せよシリーズ”に出演した俳優はその後スターになると言われています。

確かに、ソ・イングクやチョン・ウンジ、ユ・ヨンソクやシン・ソユルも目覚ましい活躍をしていますね。

このドラマを視聴すると、登場人物をまるで自分の家族や友人のように感じるようになってしまうのです。

決してイケメンではない(わざとそうしているのですが)彼らだからこそ、身近に感じ、その後を応援せずにはいられなくなってしまいます。

1988年の韓国に思いを馳せながら、その時代の懐かしさを抱きしめてドラマを楽しんでみてください。

そして、その頃の自分を思い出したら、懐かしい人たちの顔が自然と思い浮かぶかもしれません。

 

文=朋 道佳(とも みちか)
コラム提供:ロコレ
http://syukakusha.com/

2016.06.03