「コラム」日韓ではドラマ制作がこんなにも違う

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それは、2005年2月のことだった。韓国の公営放送局・KBSのドラマ映像チームに所属するベテランのカメラマンが、過労のために亡くなったのである。その背景には一体、何があったのか。ドラマ制作現場の過酷さが影響していた。

起こってしまった過労死

当時、2つのドラマの撮影を掛け持ちしていたカメラマンは、撮影中にひどい頭痛が起きたと訴えたが、頭痛薬を飲んで撮影を続けさせられた。

2日後、別のクイズ番組の編集を指示され、夜中まで作業を続けているときに再び激しい頭痛に襲われた。耐えかねたカメラマンは、休暇を申請して故郷に身を寄せたが、帰省から間もなく意識を失ってしまう。病院に緊急搬送されたが、すでに心臓マヒにより息を引き取っていた。

記録によれば、このカメラマンは1カ月に144時間も残業を強いられていた。

しかし、彼が特別なケースだったわけではない。別の調査では、同じドラマ映像チームに所属する約30人のカメラマンの平均残業時間が、60~80時間に及ぶことが明らかになった。

これは、毎週のように2時間の長さの映画を撮影するのと同じくらい、殺人的な業務量だという。

さらに、KBSだけでなく他局でも同様の問題が発生していた。

俳優も例外ではない

MBCのあるプロデューサーは、劣悪な制作環境をこう表現している。

「スタッフがドラマの撮影中に倒れて、応急室に運ばれていくのはよくあることなので、特に誰も気にすることはない」

この言葉は、制作現場のスタッフの過労が常態化していることをうかがわせる。

韓国ではひとつのドラマを完成させるまでに、カメラや音声、照明、メイクなど、多いときで約80人ものスタッフが携わる。

しかし、放送局の社員はごくわずか。そのほとんどが、ドラマ制作会社に席を置く非正規社員か、フリーランスの人間だ。

こうしたスタッフたちは、放送局から事故やケガなどに対するしっかりとした補償も受けられないまま、過酷な労働を強いられる。

俳優も例外ではない。撮影中に俳優が過労で倒れるケースは枚挙にいとまがない。

見かねたパク・シニャンがこうアピールしたことがあった。

「42時間も休まずに撮影を続けるという、俳優とスタッフを酷使する非人間的な撮影環境は改善されるべきだ」

はっきりとこう言えるのも、パク・シニャンが大物で力を持っているからだ。そうでない俳優は泣き寝入りだ。

日韓のドラマ制作環境の比較

韓国では、ドラマの制作環境に大きな問題があると以前から指摘されてきた。その主な原因として挙げられていたのは、「あまりに無理な撮影スケジュール」「制作スタッフをはじめとした人材の不足」「出演俳優に多額のギャラが支払われることによる制作予算の偏重」などだ。

しかし、実際に撮影スタッフの過労死という事故が発生した後も、こうした問題に対して具体的な対策が講じられることはなかった。

そんな韓国がお手本としたのが日本だった。

それはどういうことなのか。

KBSカメラマンの過労死が発生してから4年後の2009年4月のことである。

韓国の政府系のコンテンツ振興院が、日韓のドラマの編成方法や視聴状況、制作環境などを比較する報告書を出した。

この報告書の目的は、日本との比較を通じて、韓国のドラマ産業をより発展させるための方策を考えることだった。

しかし、報告書の大部分は、日韓のドラマ制作環境の比較に割かれた。韓国のドラマ産業をより発展させるためには、韓国も日本のような制作環境に近づけることが、何よりも重要だという結論に至ったからだ。

ドラマの制作環境に影響を与える要因は複数あるが、日韓で大きく異なるのが放送時間の長さとCMの数だ。

放送慣習の改善は可能なのか

日本の場合、ドラマの放送は週1回で、1話あたりの放送時間は46分。ほとんどのドラマが全10話で構成されている。

一方、韓国ドラマは週2回の放送が主流で、2話合計の放送時間は140分。ドラマの長さも16話から24話というのが一般的だ。ワンクールで放送されるドラマの合計時間は、多いときで韓国は日本の5倍にも及ぶ。

加えて、韓国ではテレビ番組の途中でCMを入れることができないため、広告収入も日本に比べて格段に少なくなり、番組制作に掛けられる予算も限られてしまう。しかもその予算の多くが、主役スターの報酬に使われてしまうのだ。

その結果、ひとつの作品を完成するまでに多くの労働力を必要とするにもかかわらず、予算などの制約から投入できるスタッフの数は限られてしまう。

そうした状況が、過酷な労働環境を生み出している。

報告書ではドラマの放送回数や放送時間を短縮し、番組の途中でもCMを入れるべきだと提言しているが、一度固定されてしまった放送慣習を変えるのは容易ではない。

いまだに、韓国でドラマが日本のように事前制作されることは非常に少ない。放送日ギリギリまで撮影や編集が続けられることが多いのだ。

その背景には、前述した放送時間の長さがあるのは事実だが、影響力の強い一部のスターのスケジュールに撮影日程を合わせなければいけないという事情もある。

もし韓国でも日本のようにドラマの事前制作が主流になれば、労働環境も大きく改善されるのだが……。

文=金昌祐(キム・チャンウ)+「ロコレ」編集部
http://syukakusha.com/

2016.05.29