2007年の『太王四神記』以来、主演作がないペ・ヨンジュンだが、彼の俳優としての存在感は、後輩俳優たちにも大きな影響を与えてきた。特に、キム・スヒョン、チャン・グンソクという人気俳優が、自分の演技を磨くうえでペ・ヨンジュンから貴重なアドバイスを受けている。「リスペクト(尊敬)」。まさに後輩俳優たちがペ・ヨンジュンに向ける眼差しは、この一語に尽きるといえるだろう。
韓国芸能界の先輩後輩関係
韓国の芸能界では、年齢による先輩、後輩の関係はかなり厳しい。儒教的な「長幼の序」を厳格に守る韓国社会の中でも、芸能界は特にその傾向が強いのだ。
しかし、これは窮屈なものではない。むしろ、先輩俳優は後輩俳優たちに演技の指導をしっかり行なっているし、後輩もまた先輩を敬い、謙虚に礼儀を尽くしている。そこでは、独特な共同体意識が培われているのである。
また、ドラマ制作時に俳優の拘束時間が長いというのも、俳優同士の連帯感に結びついている。
実際、韓国では1週間に70分のドラマを2回ずつ放送するのが原則なので、撮影日程は徹夜の連続になってしまう。こうなると、共演者はお互いに四六時中、顔をつきあわせることになり、まるで家族のような関係になることも多い。そういう状況がまた、俳優同士の仲がいいという韓国芸能界の特徴につながっているのだ。
必然的に、後輩俳優は先輩からアドバイスをもらう機会が増えるのだが、先輩の中で特に存在感が際立つのがペ・ヨンジュンだった。
たとえば、キム・スヒョンの例を見てみよう。
彼はペ・ヨンジュンがプロデュースしたドラマ『ドリームハイ』のサムドン役で注目され、国民ドラマとなった時代劇『太陽を抱いた月』の主役で大ブレークを果たした。
キム・スヒョンは『太陽を抱いた月』で行き詰まったときにペ・ヨンジュンから演技についてアドバイスを受けている。
的確なアドバイス
キム・スヒョンは語る。
「ペ・ヨンジュン先輩から、『ドリームハイ』のときに演技についてたくさんアドバイスをいただきました。『太陽を抱いた月』でも細かく僕の演技を見てくださいました。このドラマの序盤では僕の演技に対する意欲が先走ったところがありまして、ちょっと表現が過剰になりすぎました。ペ・ヨンジュン先輩がそういうところをしっかり指摘してくださいました」
さらに、キム・スヒョンの言葉が続く。
「特に、ペ・ヨンジュン先輩から、『フォン(『太陽を抱いた月』でキム・スヒョンが演じた王の役名)という人物は、とても賢くて鋭敏な性格という魅力を持っている。しかし、その魅力だけに集中しすぎていないか』と言われました。その言葉を受けて自分で考えてみたら、フォンが持っている純粋さを落としてしまったみたいなんです。それでかえって不自然に見えたりしたんじゃないですか。僕はペ・ヨンジュン先輩に『すぐに演じ方を直します』と答えました。その後はずっと称賛と激励をしてくださって、僕自身はとても勇気づけられました」
このコメントを読んでいて、心から感心してしまった。
ペ・ヨンジュンが、後輩であるキム・スヒョンに演技上で有意義なアドバイスを送っていたからである。
実際、ペ・ヨンジュンは『太陽を抱いた月』の中で描かれたフォンという若き王のキャラクターをよく分析していて、キム・スヒョンがその役をどう演じればいいかを的確に把握していた。
後輩に自信をつけさせる
キム・スヒョンは、ペ・ヨンジュンが語った言葉をよく覚えている。
「ペ・ヨンジュン先輩が『俳優は心細い職業だ』とおっしゃいました。僕はその心細さにも慣れてきたみたいですね。今後も誠実に準備をして、さまざまな役に挑戦したいと思います」
この言葉を聞くかぎり、キム・スヒョンはペ・ヨンジュンが俳優を「心細い職業」と評したことにかなり影響を受けたようだ。
果たして、ペ・ヨンジュンが「心細い職業」と言った真意は何なのか。
俳優は演技を前にしていつも自信を失いがちなものだ。ペ・ヨンジュンも過去に何度も自信喪失に陥り、その度に勇気をふりしぼって難題を乗り越えてきた。そんな経験を持つだけに、彼は俳優の気持ちがいかに繊細で弱いものであるかを知り抜いている。それが「俳優は心細い職業」という発言につながったのだ。
そう言うペ・ヨンジュンが先輩としていつも心掛けていることは、後輩たちに確かな自信を植えつけてあげたいということだ。
キム・スヒョンもこう語ってペ・ヨンジュンに感謝している。
「ペ・ヨンジュン先輩にお目にかかったときに、『うまくできるから大丈夫。ぜひがんばってほしい』と激励のお言葉をいただきました。そのおかげで、最後まで演技をやり終えることができたのかな、と思います」
雲の上の存在のペ・ヨンジュンから「うまくできるから大丈夫」と言われたら、後輩はどんなに心強いことだろうか。
俳優復帰するときがかならずくる
ペ・ヨンジュンが若手俳優にとって精神的支柱になっているのは、なにも彼の俳優としての実績だけがモノを言っているからではない。ペ・ヨンジュンが自ら若手俳優のそばに近寄って肩を軽くたたくように励ますから、若手俳優は勇気づけられて少しずつ自信が持てるようになるのだ。
チャン・グンソクも、ペ・ヨンジュンに後ろを押してもらった1人である。
彼は2012年3月に『ラブレイン』の制作発表会が行なわれた席で、次のように語っている。
「僕は(偉大な)ペ・ヨンジュン先輩について、あえて何かを語れる位置にはまだいません。ただ、ペ・ヨンジュン先輩に偶然会ったんです。その際にユン・ソクホ監督の作品に出る際のアドバイスを受けました。ペ・ヨンジュン先輩は『ユン・ソクホ監督が演出されるままに俳優が続いていけば、結果は願ったとおりになるのではないか』とおっしゃいました」
この言葉から感じられたのは、ペ・ヨンジュンに対するチャン・グンソクのリスペクトである。彼は『ラブレイン』に主演するにあたり、独特の世界観を持った純愛物語に不安を感じていた。ペ・ヨンジュンはそれを察してチャン・グンソクに「監督にすべてを委ねていけば結果が出る」という貴重な言葉を贈った。チャン・グンソクもどれだけ心強く感じたことだろうか。
また、『ドリームハイ』で果敢に“俳優”にチャレンジした2PMのテギョンも、ペ・ヨンジュンから貴重なアドバイスを受けている。
彼はそのときのことをこう語っている。
「ペ・ヨンジュン先輩からは『かならずうまくできるから、がんばってほしい』という激励の言葉をいただきました」
このように、テギョンに対するペ・ヨンジュンのアドバイスも、先輩としての温かみがあふれている。だからこそ、後輩の心に響くのである。
妥協を許さず自分が納得するまで演技に集中していたペ・ヨンジュン。その姿勢が若手俳優に大きな影響を与えてきた。
今は新作がないペ・ヨンジュンだが、かならず俳優に復帰するときがくる。そのときも、彼は身をもって後輩たちに俳優の真髄を見せていくことになるのだろう。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
コラム提供:ロコレ
http://syukakusha.com/