「コラム」(連載)第2回/『テバク』のここが面白い

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第2回

 

テギルの母親

第2話には、残念ながらチャン・グンソクが出なかった。

十分に予測されたことである。主人公の出生前から始まるストーリーの場合、成人した主人公が出るのは早くても第3話以降であろう。それは仕方がない。

『テバク』の場合、主役不在の空白を少しでも埋めようと、第1話の冒頭にあえてチャン・グンソクの出演シーンを作った。しかも、反乱を起こす李麟佐(イ・インジャ)との対面シーンを設定して、反乱を阻止するテギル(チャン・グンソク)の立場を鮮明にしている。このあたりの演出は巧みだった。

第2話になると主役がずっと不在で、脇を固めるベテラン陣が第1話に引き続いて「さすが!」とうならせる演技を披露している。

前回の記事では、粛宗(スクチョン)を演じるチェ・ミンスと、李麟佐に扮するチョン・グァンリョルの演技について触れた。両者の陰陽を使い分ける演技の凄味は、第2話でも十分に発揮されている。ただし、重複する記述は避けたいので、今回の第2話ではテギルの母親について見ていこう。

演じているのは、ユン・ジンソである。映像の角度によっては、「あれ、30代の頃の田中裕子に似ている」と思わせるものがある。ただし、それは先入観がある見方であって、ユン・ジンソ自身はいかにも韓国的なキリリとした目元を持った美人である。

彼女は『テバク』ではポクスンという名であったが、ドラマ『トンイ』ではトンイと呼ばれていた(トンイというのはドラマ用に創作された名前)。歴史的には淑嬪(スクピン)・崔(チェ)氏という呼び方が通っている。

歴史的な事実を見ると、淑嬪・崔氏は1693年10月に粛宗の息子を産んでいる。名前は永寿君(ヨンスグン)である。

しかし、この王子は2カ月あまりで早世してしまった。

実は、「永寿君は死んだのではなく捨てられたのだ」という設定にしているのが『テバク』である。捨てられた永寿君がテギルとして生き返るところがミソなのだ。

b4bd950731a0c4dc0339381beec99cd4ユン・ジンソが演じた淑嬪・崔氏(写真/韓国SBS『テバク』公式サイトより)

 

生まれたばかりのテギルの運命は?

『テバク』第2話でも、永寿君が1693年10月に生まれたことになっている。しかし、宮中は「王の息子ではない」という噂で持ちきりになる。

その噂は粛宗の耳にも届いていて、彼は御前会議の場で高官からその指摘を受けて怒りをあらわにする。

心を痛めた母親の淑嬪・崔氏。「この子は宮中では生きられない」と悟り、赤ん坊のすり替えを画策する。

しかし、ここまで決断するには母親として相当な葛藤と苦悩があったはずなのだが、ドラマではこのあたりが細かく描かれていなかった。韓国時代劇は重大な出来事をドラマチックに描くのは巧みだが、そこに至る心理描写が足りない場合がある。映像的に見栄えがしないというのが理由かもしれないが……。

いずれにしても、赤ん坊のすり替えが行なわれて、永寿君は淑嬪・崔氏の元亭主のところに送り届けられる。この男は博打で身を崩した情けない男なのだが、赤ん坊が粛宗と元女房(淑嬪・崔氏)の間に生まれたと思い、憎さあまって川に赤ん坊を投げ入れてしまう。それでもケガ一つなく赤ん坊が助かるところは韓国ドラマらしく、「細かいことを気にしない」という大らかさを感じる。

その赤ん坊が最後は李麟佐の手の内に入り、淑嬪・崔氏を呼び出した彼は、赤ん坊の生死を左右していることを見せつける。

このとき、息子の救命を願う淑嬪・崔氏の慟哭が胸に迫る。まさにユン・ジンソの迫真の演技によって第2話を劇的に締めくくるクライマックスになっていた。

予告編によると、第3話からチャン・グンソクが出てくるようだ。第2話では彼が不在だったが、ベテランの俳優陣がそれぞれに持ち味を生かして、主役が出てくる前の導入部をドラマチックに彩っていた。

今度は満を持してチャン・グンソクの登場だ。

 

(文=康 熙奉〔カン ヒボン〕)

コラム提供:ロコレ

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2016.03.30