韓国の人気アイドルループ「SUPER JUNIOR」のメンバー、イトゥク(本名:パク・ジョンス、30)の家族3人が亡くなった事件に対して、3つの論争が激しさを増している。
まずは、事実関係から整理する。
■2012年10月30日、イトゥク(SUPER JUNIOR)、現役として軍隊入隊。
■2012年11月13日、韓国の民放SBS、入隊前に収録した番組「強心臓」を放送。イトゥクは、親の離婚と苦しい少年期を告白。母と姉がスタジオ出演。
■2014年1月5日深夜、イトゥクの父(57)と祖父(84)、祖母(79)が自宅にて死亡。
■2014年1月6日午前、親戚が3人を発見、消防と警察に連絡。
■2014年1月6日午後、イトゥクの所属事務所は、イトゥクの家族3人が「車で出かけていた最中、交通事故で死亡した」と発表。マスコミの消防と警察に対する取材ラッシュ。その過程で、「父親と祖父母が自宅で死亡しているのが発見されたことで、正確な経緯を捜査中である」と発表される。マスコミは、「交通事故」ではないことで大騒ぎ。
■2014年1月7日午前、「東方神起」と「少女時代」、そして「SUPER JUNIOR」の所属会社で韓国最大のエンターテインメント会社、しかも上場企業である「SMエンタテインメント」がウソの発表や意図的な隠ぺいをしたことで、非難殺到。警察は、父親の「両親は、私が連れていきます」との遺書の内容と発見の状態から、父親が祖父と祖母を絞殺した後、自殺したとの断定。
■2014年1月7日午後、マスコミの取材で、祖父と祖母は認知症、父親は貿易業や電化製品販売業の事業が上手くいかず、うつ病にもなっていたことが報道される。
■2014年1月8日午前、家族3人の告別式。
1つ目の論争は、所属会社の「ホワイトライ」、つまり「善意のウソ」に対するもの。所属会社が所属芸能人の名誉や私生活を保護しようとすることは、当たり前である。しかし、それが「ウソ」になると、話が違う。しかも、上場会社である以上、つまり、その会社の株を取得した大衆の投資により運営される会社である以上、善良な目的だとしてもそのウソに対する倫理は厳格に問われないといけないとのことだ。株式会社の制度や株式市場の制度は、資本主義の根幹であるからだ。
2つ目の論争は、マスコミの報道範囲や消防、警察の情報公開の範囲問題。芸能人や政治家などの有名人、著名人になると、関連する事件や事故が、常に大衆の関心の的となり、「知る権利」の話にもなる。しかし、その家族は「一般人」であるため「報道倫理」、「情報公開範囲」の問題になる。今回は、過熱したマスコミの問題やパパラッチだけではなく、家族が放送などに積極的に出演していたことで問題が複雑になっていた。そして、自殺の場合、それを詳細に描写しないようにマスコミに対する指針は存在するが、マスコミの過熱により、結果的に曖昧な処理になっていた。韓国消防や韓国警察の迅速でストレートな発表も、日本ではあり得ないかも知れない。
3つ目の論争は、認知症や高齢化などの社会システムの問題だ。世界最高レベルである日本の国民医療保険制度を、韓国は数十年前、ほぼそのまま真似して導入していた。そして、今は肥大した医療保険料の適切運用問題なども、全く日本と同じ社会問題として抱えてきた。しかも、近年は韓国の医学や衛生の水準も世界最高レベルの日本並みで、平均寿命の飛躍的な増加による高齢化社会問題なども、全く同じ。
しかも、韓国は儒教の伝統により、老後の親の介護を「施設」に任すことに対する抵抗が強い。つまり、老後の親を自ら直接介護することこそが「親孝行」だと思うのだ。当然、親が認知症になった場合でも、一緒に住みながら面倒を見る割合が多い。「SUPER JUNIOR」イトゥクの父のように、離婚した上、経済面で生活に苦しみながらも、認知症の親と生活を共にすることが多い。専門家や専門機関に頼れる社会システムがなくはないが、儒教の伝統とぶつかる所だ。
決して裕福ではない環境で、親の不和、DV(家庭内暴力)、家族の別居、離婚、祖父母の病気まで。数々の不運を乗り越え、笑顔で周りを楽しませてくれた「SUPER JUNIOR」イトゥク。アイドルとして、アーティストしての笑顔、バラエティー司会者やパネラーとしての笑顔は、実は正反対の環境から生まれていた。
日本語の「芸能人」は、韓国語では「演芸人」と言い、英語では「エンターテイナー」という。言葉は社会や文化の鏡。日本や韓国の文化が「芸」や「演技」の「能力」を重視する反面、英語圏の社会は、「楽しませる」「癒す」などの「結果」を重視する。いつも笑顔で周りを楽しませ、癒してくれる「SUPER JUNIOR」イトゥクは、まさに「エンターテイナー」である。そのような彼を世に「贈」ってくれた家族の方々に感謝する。そして、亡くなった家族の冥福を祈る。