「コラム」康熙奉(カン・ヒボン)のオンジェナ韓流Vol.236「『私の解放日誌』が描く母親像」

イ・ミンギやキム・ジウォンが出演した『私の解放日誌』は、今年上半期でかなり話題になったドラマだった。特に、謎めいた男を演じたソン・ソックが称賛されていたが、私が注目したのは、主人公たちの母親に対する描き方だった(ネタバレを含みます)。
画像=JTBC

疲れ切った母親

『私の解放日誌』は、ソウルの郊外の農村地帯に住むヨム家の3人きょうだいがメインで描かれた。
一番上がイエルの演じるギジョン、二番目がイ・ミンギが扮する長男のチャンヒ、末っ子がキム・ジウォンの演じるミジョンである。
3人ともソウルに勤めているのだが、通勤時間がとてもかかることが不満だった。それでいて、誰もソウルで一人住まいしようとしなかった。
不思議だった。あれほど通勤時間で不満があれば、1人くらいは家を出ようとするのが普通なのに、誰もそうしない。いい年をしてみんな自宅に依存しっぱなしなのだ。「いつの時代を描いているのかな?」と感じてしまった。
その自宅では、母親のヘスク(イ・ギョンソン)が1人で家事を切り盛りしていた。彼女は見る限り大変な重労働に追われている。昼は農作業もしており、自分の時間を持てないことは容易に推察できた。
それでも夫のジェホ(チョン・ホジン)は妻を気遣う素振りを見せない。「それが当然だ」という顔で妻に接している。
働きすぎのヘスクは疲れ切っている。「あれほどいつも仏頂面で何を楽しみに生きているのか」と思ってしまう。

女性を縛り付けてきた生き方

ドラマは、子供たちの望む「心の解放」がテーマの一つになっていたが、本当に解放されなければならないのは「ヘスクの心身の解放」ではないのか。私はそういう見方をしていた。
ところが、終盤になると、ヘスクが突然死してしまった。この展開には驚いた。まさか、一番苦労している人を死なせてしまうとは……。
けれど、驚きはそれで終わらなかった。なんと、妻が過労死した事態を生んだ張本人の夫が、時間を置かずに再婚していたのである。
なぜ、このようなストーリーにしたのだろうか。
報われない人生を描きたかったのか。
母親を犠牲にして忘れさせることで子供たちの自立を強調したかったのか。
意図がまったくわからないが、暗澹(あんたん)たる気持ちになった。長くこの国の女性を縛り付けてきた生き方をまざまざと見せられたからだ。
家族のために死ぬまで働いても、夫は特別な哀惜を示さず、新たに「生活の世話をしてくれる女性」を迎えている。そんな話が過去の話ではなく、現代も起こっている。
できるなら、「韓国の母親たちが心から救われる話」をドラマで見てみたい。それが、今まで苦難にさらされてきたオンマ(母親)たちに報いることにつながると思えるのだが……。

文=康 熙奉(カン・ヒボン)

2022.10.09