『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』は、IUが女優としての新境地を開き、2018年百想芸術大賞作品賞を受賞した珠玉の名作。今回は、ヒロインとの悲しい因縁を持った青年グァンイル(チャン・ギヨン扮)について触れてみたい。
出会う人で変わる人生
『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』は、不遇な人生を生きている若い女性と人生の重さに耐えながら生きている中年男性が出会い、お互いの人生を癒やしていくヒューマンドラマ。数年前から日本での放送が開始されたがまだ爆発的大ヒットには至っていない。しかし、SNS等を通じて徐々に知名度を増し、予想外の大傑作だと注目が集まっている作品でもある。
本作の序盤はとても重苦しい雰囲気が漂っている。主人公のジアン(IU)が不憫でいたたまれない。ジアンが借金取りのグァンイル(チャン・ギヨン)から執拗に暴力を受けるシーンが酷いこともその理由の一つだ。この暴力シーンはドラマ放映時に韓国国内でかなり物議を醸したが、製作者側は当時次のような説明をした。
「劇中のグァンイルとジアンは債務関係を越え、過去の事件によって関係を持った人物です。これからの関係性に注目しながら、どうか長い目で見て下さい」
グァンイル役に扮するチャン・ギヨンは、心に翳のある演技をさせたら最近の若手俳優の中でピカイチではないだろうか。
おそらく彼の右に出る人はいないと思わせるほど、チャン・ギヨンの瞳で語る演技は見るものの心を捉えて離さない。そんな彼の目つきの鋭さも相まって、劇中のジアンへの暴力シーンは見るに耐えない辛いシーンだった。しかし、最終回まで視聴すると、あれは本作をここまでの素晴らしい作品に完成させるために必要だったと断言できるようになる。
グァンイルの父親のせいで、ジアンとグァンイルはそれぞれの理由から不幸のどん底に突き落とされる。それが、2人の肩にずっと重くのしかかっていく。グァンイルはジアンの借金を肩代わりし、その利子を受け取るという名目で常にジアンにつきまとう。ジアンに対する愛と憎しみの入り交ざった感情だけが、グァンイルが生きていくための唯一の歪んだエネルギーだったのだろう。
ジアンがドンフン(イ・ソンギュン)に生きる勇気をもらったように、グァンイルもまたドンフンの一言によって長年の苦しみから解放された。
「大人1人のせいで、2人とも苦労したな」
盗聴器から聴こえてきたドンフンのこの一言にひとすじの涙を流すグァンイル。ジアンもグァンイルもおそらく助けを求めていたわけではない。人とは違った人生でも苦しいながら自分なりに必死で生きてきたのだから。ジアンもグァンイルも世の中に自分の苦しみを理解してくれる人はいないと思っていた。それなのに、ジアンの前にはドンフンが現れた。
そんなジアンとドンフンの関係を複雑な気持ちで盗聴していたグァンイル。気持ちが交錯するグァンイルの心に突き刺さったのは、上記のドンフンの一言だった。繰り返しになるが、ジアンもグァンイルもおそらく助けを求めていたわけではない。ずっと解放できずにいた心の苦しみをただ誰かに理解してほしかったのだ。本作の登場人物は皆そんな思いを抱えている。そんな登場人物たちにどこかしら共感できる部分があるから、この作品は多くの人の心を打つのだ。
終盤まで目つきの鋭かったグァンイルだったが、ラストは晴れやかな表情だった。その後、グァンイルは果たしてどうなったのか?それは、エンドロールに映し出されるヨングァン金融の看板から推察できる。字幕には「お手伝いします。ヨングァン金融」としか書かれていないが、看板をよく見ると韓国語で次のように書かれている。
「저도 한때는 당신과같은 처지였습니다.가족같은마음으로 돕겠습니다 영광대부」
「私もかつてはあなたのような境遇でした 家族のような気持ちでお手伝いします ヨングァン金融」
韓国でのドラマ放映時には、暴力シーンに苦情が殺到し放送継続が危ぶまれた本作だったが、最終回を迎えての視聴者の反応は大きく異なったものだった。
「自分もドンフンのような大人になりたい」「素晴らしいドラマをありがとう」
人生は出会う人で変わる。
ドンフンのお陰で「出会ってよかったと思われる人に、今からでもなりたい」と心から思えた。今後『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』が多くの人に見てもらえることを心から願っている。
文=朋 道佳(とも みちか)
「『スリル』と『ほのぼの』が同居した多様性ドラマ」マイ・ディア・ミスター名作物語2
コラム提供:ヨブル