「シネマート新宿」で7月16日から、「シネマート心斎橋」で7月23日から公開される映画『暗殺』。昨年の夏に韓国で観客動員数1270万人を記録したメガヒット映画だが、見ていて惚れ惚れしたのがチョン・ジヒョンの演技だった。今の韓国でトップの女優と言っても過言ではないだろう。
演じたのはスナイパー
映画『暗殺』の舞台は、日本統治下にあった1930年代の京城(今のソウル)。ストーリーは、独立運動家たちが、虐殺に関わった軍人と国を売った親日派の大物を暗殺するという設定になっている。
その暗殺部隊のスナイパーとなるアン・オギュンを演じたのがチョン・ジヒョンだった。感情を押し殺し、淡々と任務に励むアン・オギュン。そのキャラクターは、『暗殺』のチェ・ドウフン監督の前作だった『10人の泥棒たち』でチョン・ジヒョンが演じた役と好対照だった。
『10人の泥棒たち』では、わがままで我を通すオンナ盗賊の役を「立て板に水」のように演じたチョン・ジヒョン。彼女はテレビドラマ『星から来たあなた』でも、同じくわがまま放題の女優を奔放に演じた。
格別の女優魂
『星から来たあなた』を見ていて驚いたのは、チョン・ジヒョンがスッピンでヒステリックに荒れる場面をあけっぴろげに演じたこと。何も隠すものがないほどすべてをさらけ出す姿には、心地よい快感があった。
彼女ほどの名声と実績があれば、普通は演技にも「こだわり」が出てしまい、それがときには視聴者を白けさせるものなのだが、チョン・ジヒョンには変なプライドはなかった。あったのは、「そこまでやるのか!」という女優魂だった。
そんなチョン・ジヒョンが、映画『暗殺』では別人のように変わった。母を殺された憎しみを胸に秘め、与えられた任務に最善を尽くそうとする。実に清楚で、感情というものをどこかに置き忘れてきたような女性だった。
ところが、実際に任務の場面になると、重い銃を持ちながら、屋根伝いに機敏に走りまわる。
「アン・オギュンは男まさり。こんな女性が実際にいたかもしれない」
観客にそう思わせる説得力が、チョン・ジヒョンの演技からにじみ出ていた。
華のある存在感
映画『暗殺』の中で、チョン・ジヒョンの美しさにハッとさせられたのは一度や二度ではない。不思議な殺し屋を演じた共演のハ・ジョンウと偽の夫婦役になるときの戸惑い、独立運動家を装った密偵のイ・ジョンジェから見送られるときの愁い、そして、初めて大衆の中でダンスを踊るときの恥じらい……それぞれのシーンに女優の美しさが散りばめられている。
今、チョン・ジヒョンは人生で一番美しいのではないか。
そう思ってしまうのも、映画『暗殺』の中で彼女が見せるシーンの一つひとつに魅せられてしまったからだ。
ちなみに、チョン・ジヒョンがイ・ジョンジェと共演するのは3回目だが、一番最初は2000年に制作された『イルマーレ』だった。あのときの彼女は、ふっくらした印象の初々しい女子大生だったのだが、まさかその直後に『猟奇的な彼女』で大ブレークするとは夢にも思わなかった。
あれから10数年。韓国映画界の最前線を走り抜け、今度もまた『暗殺』で当代随一の演技を見せた。華は、彼女の立つところから生まれてくる。
今年2月には出産して母になった。『暗殺』は、母になる前の最後の映画ということになるのだろう。そう思うとよけいに、チョン・ジヒョンの美しさがいとしくなる。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
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