
恋に落ちるだけでは、もう物足りない――?
2026年秋の韓国ドラマを見渡すと、そんな変化が見えてくる。
男女が出会い、惹かれ合い、すれ違いながら恋を育てていく。韓国ドラマの王道ともいえるロマンスは今も健在だ。しかし今秋は、そこにスパイ、ロボット工学、SFといった異なるジャンルや設定を大胆に掛け合わせた作品が相次いで登場する。
さらに、これまでロマンス作品でも強い存在感を発揮してきたキム・ジウォンやソ・ヒョンジンは、恋愛とは異なる緊張感を前面に押し出した作品へ。
「誰と誰が恋をするのか」だけではなく、「どんな世界で、どんな状況に置かれた2人なのか」。2026年秋の韓国ドラマでは、登場人物の“関係性”を面白くするための舞台そのものが、これまで以上に多彩になっている。
■キム・ユジョン、スリから密偵へ…『100日の嘘』はスパイ×ロマンス
その象徴ともいえるのが、10月10日に韓国tvNで放送を開始するキム・ユジョン、パク・ジニョン主演の『100日の嘘』だ。日本ではNetflixで配信される。
舞台は1932年、日本統治下の京城(キョンソン、現在のソウル)。キム・ユジョン演じるイ・ガギョンは、京城一のスリから密偵となり、朝鮮総督府へ潜入する。そこで出会うのが、パク・ジニョン演じる朝鮮総督府のエリート通訳官キム・テウンだ。
スリとエリート通訳官。さらに、密偵という秘密を抱えた女性と、その潜入先で出会う男性。最初から普通の恋愛とはほど遠い関係だ。
キム・ユジョンは制作発表会で、ガギョンも自分がどんな夢を見るべきか分からない若い人物であり、テウンもまたアイデンティティーに混乱を抱える人物だと説明。2人が出会い、互いを感じながら共に成長していくロマンスだと語っている。
つまり、ロマンスは物語から切り離された“甘い時間”ではない。極秘任務や互いの立場、1930年代という時代そのものが2人の感情を揺さぶり、恋愛とスパイ劇が同時に動いていく。
甘いだけでは済まされない状況に男女を置くことで、恋に落ちること自体に緊張感を生み出す。『100日の嘘』は、今秋目立つ“ジャンルをまたぐロマンス”を分かりやすく体現する作品といえそうだ。

■キム・ソヒョン×チュ・ヨンウ、恋が始まる場所はロボット研究室
『100日の嘘』が激動の1930年代へ向かう一方、キム・ソヒョンとチュ・ヨンウ主演の『恋愛の博士課程』が恋の舞台に選んだのは、ロボット研究室だ。
10月5日からDisney+で配信される同作は、高校時代に水泳選手だったものの病気で片脚を失ったロボット工学博士課程の学生ミンジェ(チュ・ヨンウ)と、進路を見失った末に新たな道へ踏み出す修士課程の学生ユジン(キム・ソヒョン)の物語を描く。
華やかなキャンパスを舞台にした青春ロマンスとは少し違う。
研究、卒業、就職、そして将来への不安。そんな現実に直面する大学院生たちの日常の中で、恋もまた思い通りには解けない“難題”として存在する。
脚本を手掛けたのは『屋根部屋のネコ』『フルハウス』などのミン・ヒョジョン。現実的な若者たちの日常とロマンスを組み合わせ、「どう生きるか」という問題と恋を同時に描いていく。
さらに同作は、『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』『ある春の夜に』などで男女の繊細な感情を描いてきたアン・パンソク監督の遺作でもある。
ロボット工学という一見ロマンスから遠い世界と、思い通りにならない若者たちの人生。その間に恋愛を置くことで、“好きになること”だけでは終わらない青春の姿を描く。

■“触れたら感電”なのに“触れなければ生きられない”?
さらに、恋愛ドラマのお約束そのものをSF的な設定に変えてしまったのが、キム・ヨングァンとチェ・スビン主演のNetflixシリーズ『ハートにチャージして』だ。
キム・ヨングァンが演じるのは、人工心臓を抱える大企業の御曹司。一方、チェ・スビンは体に電流を宿し、触れた相手を感電させてしまう女性を演じる。
人工心臓を“充電”してもらうために2人が契約を交わすという設定からして、一般的なラブコメとはひと味違う。
ラブコメでは、偶然手が触れたり、思いがけず顔が近づいたりする“物理的な距離”が胸キュンを生み出してきた。
ところが本作では、その「触れる」という行為そのものが文字通り命に関わる。
触れれば危険。しかし、彼女の電気が彼の命をつなぐ。
恋愛ドラマで繰り返されてきた“接近”という王道の仕掛けを、人工心臓と電気という設定でひっくり返す。ロマンスにSFを足すだけではなく、ロマンスそのものの仕組みを別の角度から作り直している点が面白い。

■ロマンスから離れたキム・ジウォン、今度はメスを握る
一方、2026年秋の変化を象徴するのは、“進化したロマンス”だけではない。
むしろ恋愛から離れることで、新しい顔を見せる俳優もいる。
その代表格がキム・ジウォンだ。
10月9日に韓国SBSで放送を開始する『ドクターX ~白衣のマフィア~』で、キム・ジウォンは謎めいた天才外科医ケ・スジョンを演じる。日本ではNetflixで配信される。
舞台は、エゴと腐敗が渦巻く巨大病院。ケ・スジョンは圧倒的な手術の腕を武器に、不条理がはびこる医療界へ切り込んでいく。
『涙の女王』などロマンスを軸とした作品でも大きな存在感を見せてきたキム・ジウォンだが、今回は恋に揺れる主人公ではない。
愛をめぐる駆け引きの代わりに描かれるのは、病院を舞台にした権力との対立だ。恋愛の相手ではなく、巨大な組織やそこに巣食う不条理が主人公の前に立ちはだかる。
ロマンス作品で親しまれてきた俳優を、まったく異なる関係性の中心へ送り込むことも、今秋のラインナップを面白くしている。
■ソ・ヒョンジン×ユ・ヨンソク、10年ぶり再会なのに“恋”ではない
そして、視聴者が期待する関係性そのものを逆手に取るのが、ソ・ヒョンジンとユ・ヨンソク主演のMBC新ドラマ『ライアー(原題)』だ。
2人が作品で顔を合わせるのは『浪漫ドクター キム・サブ』以来、約10年ぶり。しかし今回、2人の間にあるのはロマンスではなく“疑い”だ。
『ライアー(原題)』は、ひとつの記憶をめぐって正反対の主張をする男女が、真実を求めて激しく衝突する心理スリラー。韓国では10月30日からMBCで放送される予定だ。
10年ぶりに再会した2人なら、もう一度ロマンスを――。
そんな期待を抱く視聴者もいるかもしれない。しかし本作が突きつけるのは、「相手を愛せるか」ではなく、「相手のどちらが嘘をついているのか」という問いだ。
かつて共演した2人だからこそ生まれる親しみを利用しながら、それを心理的な緊張へと反転させる。これもまた、“男女2人の関係性”を恋愛だけに限定しない現在の韓国ドラマを象徴する組み合わせといえる。
■“誰と恋する?”から“この2人をどこに置く?”へ
こうして2026年秋のラインナップを並べると、単純に「ロマンスが減った」と見るだけでは足りない。
『100日の嘘』ではスパイ劇、『恋愛の博士課程』ではロボット工学と大学院生の現実、『ハートにチャージして』では人工心臓と電気というSF的な設定。
いずれも恋愛は重要だ。しかし、「恋愛があるから物語が始まる」というより、強烈な世界や設定の中へ男女を放り込み、そこで生まれる関係性の変化をロマンスとして見せている。
その一方で、『ドクターX ~白衣のマフィア~』のキム・ジウォンは病院の権力構造へ、『ライアー(原題)』のソ・ヒョンジンとユ・ヨンソクは互いを疑う心理戦へ向かう。
つまり変わりつつあるのは、ロマンスの有無というよりも、“関係性の作り方”なのかもしれない。
「誰と誰を恋に落とすか」から、「この2人をどんな世界に置けば、まだ見たことのない感情が生まれるのか」へ。
スパイ、ロボット工学、SF、メディカル、心理スリラー――。さまざまなジャンルをのみ込みながら、韓国ドラマのロマンスと人間関係はさらに形を変えている。
2026年秋、視聴者を夢中にさせるのは甘い告白だけではなく、その言葉が飛び出すまでに2人がどれほど過酷で予測不能な世界をくぐり抜けるのか、なのかもしれない。
WOW!Korea提供





