
「第2話で視聴率15%突破」――。
数字だけを見れば、ただのヒットニュースに映るかもしれない。しかし、韓国ドラマを見続けてきた人ほど、この記録がいかに異例かを理解しているだろう。
一般的に韓国ドラマの視聴率は、口コミやSNSで話題が広がり、中盤から終盤にかけて伸びていく作品が多い。ところが、ソ・ジソブ主演のSBS金土ドラマ「エージェント・キム:リアクティベーティッド」(以下「エージェント・キム」)は、その流れを待つことなく、放送開始からわずか1週間で視聴者の心をつかんだ。
初回9.5%(ニールセンコリア全国基準)でスタートすると、第2話では15.7%まで急上昇。2026年放送のSBSドラマ最高視聴率を更新しただけでなく、「ペントハウス3」以来約5年ぶりとなる、SBS金土ドラマの“第2話で15%突破”という快挙も成し遂げた。
勢いは韓国国内だけではない。世界のOTTランキングサイト「FlixPatrol」でも配信開始直後から上位に入り、韓国をはじめ香港、台湾、シンガポール、マレーシア、インドネシアなどアジア各国で高い人気を獲得。さらにアメリカやイギリス、ブラジルでもトップ10入りを果たし、世界市場でも存在感を示している。
では、なぜ本作は放送開始直後からここまで強い支持を集めたのだろうか。
■「新しさ」より“王道”を選んだ強さ
近年の韓国ドラマは、タイムリープや複数の時間軸、緻密な伏線、複雑な世界観など、“考察”を楽しむ作品が次々と話題を集めてきた。
一方、本作が描くのは驚くほどシンプルな物語だ。
主人公は、ごく普通の父親。しかし、その正体は国家のために数々の極秘任務を遂行してきた伝説の工作員だった。封印してきた過去を呼び覚まし、たった一人の娘を救うため再び戦いへ身を投じる――。それが「エージェント・キム」の物語である。
設定だけを見れば決して新しくはない。
それでも人々を引きつけるのは、「家族を守りたい」という誰もが理解できる普遍的な感情を物語の中心に据えているからだ。
リーアム・ニーソン主演の映画「Taken」、ウォンビン主演の韓国映画「アジョシ」。いずれも「守るべき存在のために立ち上がる男」という王道の構図で世界中の共感を集めた。
本作もまた、その普遍的なテーマに韓国ドラマならではのスピード感と濃密な感情描写を掛け合わせることで、新たな魅力を生み出している。
複雑な設定ではなく、主人公の感情に寄り添う物語。だからこそ国や文化を越えて受け入れられ、多くの視聴者の心を動かしているのかもしれない。
■いま世界が求める“ドーパミンドラマ”
韓国ドラマでは近年、「ゴグマ」と「サイダー」という言葉が作品を語る上で欠かせない。
「ゴグマ」は視聴者をもどかしくさせる展開、「サイダー」は、そのストレスを一気に吹き飛ばす爽快な展開を意味する。
以前は、誤解や苦難を何話にもわたって積み重ねるドラマも少なくなかった。しかし、配信サービスの普及によって世界中の作品と比較される時代となり、視聴者が離脱するスピードも格段に速くなった。
だからこそ今、高い支持を集めているのが、悪を放置せず、視聴者が最も見たい瞬間を惜しみなく届ける“ドーパミンドラマ”だ。
Netflixシリーズ「鉄槌教師」が世界的なヒットを記録した背景にも、この痛快さがあった。
学校という閉ざされた空間で理不尽な暴力に立ち向かった「鉄槌教師」と、娘を救うため犯罪組織へ単身乗り込む「エージェント・キム」。
舞台も主人公も異なるが、「悪には必ず立ち向かう」という明快な構図と、テンポよくカタルシスを積み重ねる作劇は共通している。
視聴者にストレスを抱えさせるのではなく、感情を一気に解放する――。
その爽快感こそが、いま韓国ドラマが世界で支持を広げている理由の一つと言えそうだ。
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