<Wコラム>「2PM」と「GOT7」で分かる「戦国時代」と日韓経済

<Wコラム>「2PM」と「GOT7」で分かる「戦国時代」と日韓経済

今日は、アイドルグループ「2PM」の弟分、「GOT7」(ゴットセブン)の話だ。アクロバティックに近いダンス・アイドルとして、日本でも知名度がアップしている。その誕生の背景を探ってみよう。

日本のJ-POPアイドル界。男性アイドルは「ジャニーズ事務所」、女性アイドルは「AKS」や「アップフロントプロモーション」が市場を独占している傾向がある。「SMAP」、「TOKIO」、「V6」、「KinkiKids」、「嵐」、「タッキー&翼」、「NEWS」、「関ジャニ∞」、「KAT-TUN」、「AKB48」、「SKE48」、「HKT48」、「モーニング娘。」、「Berryz工房」、「スマイレージ」など、時代を代表する有名アイドルが限られた会社から生まれてきているのだ。

韓国のK-POPアイドル界でも、数年前までは日本と同じ現象が起きていた。「SMエンタテインメント」や「YGエンタテインメント」や「JYPエンタテインメント」など、上場企業に所属するアイドルたちが圧倒的な人気を誇っていた。J-POPとK-POPの境界線に立つ「東方神起」や「BoA」や「BIGBANG」を含め、「少女時代」、「SHINee」、「2NE1」、「2PM」、「2AM」、「WonderGirls」、「MissA」などのアイドルのことだ。

しかし、2010年を前後にK-POP界では「アイドル戦国時代」が幕を開け、中小規模の芸能プロダクションの躍進が目立つ流れとなっている。

「BEAST」や「4Minute」などをブレイクさせ、今では業界を牽引する芸能事務所となった「CUBEエンタテイメント」 も、「SISTAR」や「BOYFRIEND」などが所属する「STARSHIPエンタテインメント」も、実は2008年創業の歴史の浅い零細規模の芸能プロダクションだったのだ。

その他、 「INFINITE」の「WOOLLIMエンタテインメント」や「TEEN TOP」の「TOPメディア」なども創業10年程度の中小規模プロダクションだ。

また、昨年の新人賞を総なめした「防弾少年団」の「BigHitエンタテインメント」やガールズグループ「CRAYON POP」の「Chromeエンタテインメント」も新生事務所に過ぎない。

ただ、このような中小零細規模の芸能事務所は、最近ではその多くが潤沢な資金力を持つ上場系エンタメ企業に「吸収合併」という形で買収されることが目立っている。

「CUBEエンタテイメント」 は映画と俳優マネジメント大手の「iHQ」に、「STARSHIPエンタテインメント」は音源事業の大手「LOENエンタテインメント」に、「WOOLLIMエンタテインメント」は同業界の最大手「SMエンタテインメント」に買収された。

一方、小回りの効く中小規模の事務所に所属したままブレイクを果たし、ヒットを連発しているアイドルグループもまだまだ多い。

先日、ミニアルバム「SOLO DAY」をリリースし、アジアツアーを間近に控えている「B1A4」(WMエンタテイメント)や、昨年アジアだけでなく欧米やオーストラリアでのツアーも成功させた「B.A.P」(TSエンタテイメント)などが良いケースだ。

彼らは零細事務所ならではのメリットを活かし、「選択と集中」に特化した戦略で大手プロダクション所属のアイドルに負けない活躍を見せている。

例えば「B1A4」の場合は、「刀群舞」(カルグンム)と言われるK-POPアイドルの象徴とも言うべき「集団パフォーマンス」の代りに、流れるようなナチュラルなチームワークで差別化に成功している。そして、メンバーのほとんどが作詞作曲のスキルを身につけたことで、セルフ・プロデュースが開花し、独自の音楽性をアピールしている。

また、「B.A.P」の場合は、デビュー当時から大胆なコンサート戦略で勝負してきたことが功を奏し、短期間で人気アイドル仲間入りを果たした。
例えば、デビュー記念のショーケースを3000人規模で行ったり、デビュー2年目でワールドツアーにチャレンジしたりするなど、周りからは「無謀」と言われながらも、会社の限られた資源を「B.A.P」に集中させる戦略で大手並の成功を手に入れた。

日本では「ジャニーズ事務所」、韓国では「SMエンタテインメント」のように、過去には所属事務所のブランド力だけでブレイクしてしまうアイドルが当たり前のように出現していたが、もはや時代は変わりつつある。

ブログやSNS、動画配信サイトなどの普及で、情報発信の媒体が変わったことから、資金力に頼った大手の宣伝手法だけでは通用しなくなった。
かつての「マス4媒体」(テレビ・新聞・ラジオ・雑誌)の影響力が激減し、「専門サイト」や「ポータル・サイト」の影響力が激増したことがその背景。零細企業のユニークなWEBマーケティングだけでも、ある程度は勝負できるようになったのだ。

「見せる音楽」がメイン商品でもあるK-POPアイドル界。所属会社のマーケティング力や宣伝力が特に重視される世界なので、今も奇抜な企画力で武装した新生企業が出現しつつある。

そして、大手にも関わらず、逆に過去の「栄光の記憶」や「大手意識」を捨てて新たな企画を見せるケースも出てきた。「JYPエンタテインメント」の「GOT7」(ゴットセブン)がその例。今年デビューしたばかりだが、長い企画と練習期間を経ている。「多国籍軍」とも言えそうな構成も謙虚になった大手ならでは選択だ。大手とは思えない「体を張る」企画は、「大手の反撃」とも言えそうだ。

大手企業は大手として停滞せず体を張る。中小零細新生企業はそれらしき「ゲリラ作戦」でその才能を絞り出す。そして、大手までを脅かす存在となり、時には大手の資本と結合しながら、業界をリードする。

これこそが、大衆の楽しみの源であり、アイドル業界全体の進化にもつながる訳だ。昨今の日本経済にも、政治的で人為的な景気浮揚だけではなく、このような循環が必要かもしれない。

2014.07.26