「コラム」連載「康煕奉(カン・ヒボン)のオンジェナ韓流」Vol.9 韓流ドラマでも描けない孤高の日韓友情物語

小平奈緒と李相花の抱き合う写真を掲載した2月19日付けの「日刊スポーツ」

時差がなかったことで、平昌(ピョンチャン)オリンピックは日本でも最適な時間に競技の醍醐味を堪能できた。日本選手の大活躍もあり、テレビの視聴率もとても良かった。それだけ日本で名場面を見た人が多かったのだが、特に印象的だったのは小平奈緒と李相花(イ・サンファ)がお互いに健闘を讃えあうシーンだった。

それぞれの立場

勝負が決した瞬間、その一瞬に脳裏を占めたのはどんな光景だったのだろうか。
小平奈緒。
絶対的な優勝候補として平昌オリンピックのスピードスケート女子500mに臨んでいた。そして、力どおりの強さで五輪新記録の金メダルを獲得した。
安堵。
それが小平奈緒の率直な感情であった。普段どおりの力を発揮できたことが彼女の一番の勝因。それだけに「ホッとした」というのが偽りのない心境だろう。
李相花。
過去2回の冬季オリンピックで500mを連覇している彼女は、名実ともに韓国の「氷上女帝」だ。地元開催の平昌オリンピックだけに、韓国の期待は並大抵ではなかった。
重圧。
押しつぶされそうな日々の連続であったに違いない。しかも、連戦連勝を続ける小平奈緒にはすでに力で及ばないことは明らかだった。万が一、五輪3連覇を達成できるとすれば、それは小平奈緒が普段どおりの走りができなかったときだ。
しかし、小平奈緒はいつもどおりだった。結果としての2位。李相花も全力を尽くして銀メダルを死守した。

人と人が交われば

頂上を知る小平奈緒と李相花。
彼女たちにしか見えない風景がある。孤高な2人だけに、逆にお互いのことがよくわかるのだ。
すべての重圧から解き放たれた李相花は、勝敗が決した直後に涙をこらえることができなかった。そんな彼女を待ち構えていたのが小平奈緒だった。
小平奈緒は優しく李相花を抱きかかえ、「チャレッソ」と声をかけた。
「よくやったね」
それは最高の褒め言葉であり、最愛の慰めだった。
3歳上の小平奈緒が妹のような李相花に伝えるのに、「チャレッソ」は最適な言葉だ。
それにしても、孤高の2人のなんと羨ましき友情であろうか。
政治問題がからみやすい日韓の間だが、人と人が交われば、そこには無数の友好物語が生まれる。
そのことを小平奈緒と李相花が美しい抱擁で見せてくれた。
どんなに演出が巧みな韓流ドラマでも、あれほど美しいシーンをクライマックスにもってくることはできない。

文=康 熙奉(カン ヒボン)

2018.03.03