「コラム」第13回 いま読みたい!人気俳優物語 ウォンビン(後編)

ウォンビンの『母なる証明』での演技は、自分が持っていたイメージを破壊するのではなく、そのイメージを巧みに利用しながら新しい出発のためのエネルギーに転化させるものだった。もっと端的にいえば、その容姿に隠された真実は、彼が美しいものにも残酷なものにもなれるということを物語っていた。

I-1女優のイ・ナヨンと結婚したウォンビン

第13回/ウォンビン(後編)

 

計算された演技プラン

ウォンビンは映画『母なる証明』で、自分が持っているイメージの明るい面だけではなく、暗い面も掘り出した。

つまり、演技によってイメージの光と陰の両方をあぶりだしたといえる。これは、俳優として今までなかった新しい進化だ。

多くの場合、俳優が変身をはかる時は以前とはまったく違う役に挑戦する。そのほうがファンにはインパクトがあり、話題性もある。俳優自身もあまり悩む必要がなく、何もかも今までやってきたことの反対をやればいい。

ウォンビンが『母なる証明』で頭の弱い田舎の青年を演じると聞いたとき、彼が以前のイメージを変えようと無理をして、自分が持っている何もかもを破壊してしまうのではないかと心配した。

しかし、ウォンビンの演技はそのような単純なものではなかった。シナリオを綿密に分析し、計算された演技プランを立てている。

結果的に、自分が持っているイメージを元にして、そのイメージの可能性を広げた演技となったのである。

 

欠点から自分の特徴を作りだす

ウォンビンは、20代後半から30代初めという大事な時期に、俳優としてあまり活動できなかった。このことが、どれほど彼の重荷になっていることか。

多くの俳優たちが常に、固められた自分のイメージを克服しようとして「変身」を企む。しかし、そのほとんどは失敗に終わり、元の位置に戻るか、最悪の場合は人気を失ってファンからも忘れられてしまう。

その原因は俳優が単に既存の自分を否定し、破壊しようとしたからだ。善くも悪くも、今は自分の足を引っ張っていると思えるその既存のイメージがあったからこそ、ある程度の人気も得られたのに……。

それを破壊したら、結果が思わしくないのも必然だ。

ウォンビンは違う方法を選んだ。既存の自分を否定してその反対側に走るのではなく、ファンの視線を少し、しかし、明確に違う方向に誘導する方法を選んだ。

ウォンビンがそのような方法を選ぶことができたのは、ファンの間で彼を見守り保護してあげたいという気持ちが作用しているということを自覚したからではないだろうか。

ウォンビンがもし完全に新しいイメージを作ろうとしたら、ファンは狼狽しただろう。そうではなく、彼は既存の弱くて保護されるイメージを一層複雑で多様な可能性を持った深みに入り込ませたのである。自分の欠点をただ克服するのではなく、欠点から自分だけの特徴を作り出そうとしたのだ。

そのような彼の意図は成功したと思える。これは、ウォンビンが持っているイメージが、強くて仰ぐようなものでなかったことも幸いした。

ウォンビンは、俳優であると同時にスターでもある。本来、スターとはファンから仰がれる対象なのだが、ウォンビンの場合はちょっと事情が違う。ファンは彼を単に仰ぐのではなく、ずっと見守りたいという気持ちを持っていた。

ウォンビンは、そのようなファンの気持ちと自分のイメージがうまく重なれば、多様な可能性を発揮できると知ったことだろう。

 

I-2麦畑の中に立つウォンビンとイ・ナヨンを遠くから親族が見守っている

 

究極のジミ婚

ファンは、ウォンビンの結婚をどう感じたのだろうか。

彼は2015年5月30日に、女優のイ・ナヨンと結婚式を挙げた。

人気俳優同士の結婚。華やかなウェディングをつい想像していしまうが、実際には田舎にある麦畑の中で結婚式が行なわれ、出席したのも両家の親族が20人ほどだ。

食べた料理はクッス(韓国の麺)が中心だった。というより、両家の両親たちが婚礼用の料理を用意して、式に合わせて持ち込んだのだ。

結果的に、結婚式にかかった費用は110万ウォン(約11万円)だったという。

究極的と言えるほど地味な式だった。

ウォンビンは2014年にソウル市内に20億ウォン(約2億円)とも言われる豪邸を購入している。そんな人気俳優が結婚式になると、ガラリと変わった。

いや、いかにもウォンビンらしい、と言える。

無口で、自分を飾ることが嫌いで、見栄をはらないスター。見守るファンも「それこそがウォンビン!」と大いに納得したことだろう。

文=朴敏祐(パク・ミヌ)+「ロコレ」編集部

 

コラム提供:ロコレ
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2016.08.20