「コラム」第3回 いま読みたい!人気俳優物語/チ・ジニ(前編)

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第3回/チ・ジニ(前編)

 

身分の違いを乗り越えてチャングムに熱烈な愛を傾ける朝鮮王朝時代の本当のロマンチスト「ミン・ジョンホ」を好演したチ・ジニは、同ドラマで人気を不動にした。ユニークな経歴をもつ彼は、一体どんな俳優人生を歩んできたのだろうか。

 

普通のサラリーマン

少年や少女にとって俳優はあこがれの職業。大成した俳優の多くは、小さい頃から俳優を夢見て精進してきた人たちだ。

チ・ジニは一度も俳優を夢見たことがなかった。小さい頃は何かを造ることが大好きだった。

時間さえあれば、木や紙を使っておもしろい模型を造っていた。

大学でデザインを学び、そのまま広告会社に就職。広告の写真やデザインを手掛けるクリエーターになった。

そんな彼に目をつけたのが、大手芸能事務所の関係者だった。チ・ジニは1年間にわたって俳優への転身をもちかけられた。それほど、チ・ジニには一般人でありながら俳優に匹敵するオーラが漂っていた。

しかし、チ・ジニにはその気がなかった。

「年齢も上だったし、結婚もしなければいけないので、ずっと辞退してきました」

そこまで語るチ・ジニは、なぜ芸能界への転身を決意したのだろうか。

 

会社をやめる決断

「もし、IMF危機が来なかったら俳優にはならなかったと思います」

チ・ジニは率直にそう語る。

この「IMF危機」とは、1997年に韓国を襲った未曾有の経済危機のことである。IMF(国際通貨基金)から莫大な融資を受けなければならないほど、韓国の国家財政は危機に瀕した。当然ながら企業の倒産が相次ぎ、チ・ジニが勤めていた会社も危なくなってしまった。

リストラが必至の状況の中で、彼は「年が下の自分が真っ先に身を引くべき」と考え、芸能界への転身を決意した。

「誰かが辞めなければならなかったんです。一番年下の自分がやめるべきだろうと思い、1年だけ俳優としての可能性にかけてみることにしました」

しかし、芸能界は甘くはなかった。

やはり、そこは未知なる世界。チ・ジニは慣れない業界で苦労をして、さしたる成果をあげられなかった。俳優とはいっても、アルバイトで写真の手伝いをしなければならないときもあった。

それでも、一応はドラマ『ジュリエットの男』に出演するが、演技力不足もあって、さして注目されなかった。

fgtr679『宮廷女官 チャングムの誓い』でミン・ジョンホを演じたチ・ジニ

 

時代劇に対する適性

下積みを経験したチ・ジニ。徐々に演技力が磨かれていった。

そして、2002年にフジテレビと韓国MBCが合同で制作したドラマ『ソナギ』で人気女優の米倉涼子と共演することになった。

このドラマでチ・ジニは韓国の刑事を颯爽と演じて、日本でもその名が知られるようになった。

そんな彼の転機になったドラマが『ラブレター』である。今まで演じたことがないようなクールな人間に扮し、内面の葛藤をうまく表現する演技派への道を開いた。

この演技が評価されて、『宮廷女官 チャングムの誓い』で主演のイ・ヨンエと共演するという大役を射止めた。

初めての時代劇だったが、彼には少しばかりの自信があった。

「1998年に映画『イ・ジェスの乱』の男性主人公のオーディションを受け、何千人の応募者の中で最終の5人に残りました。そのときに髷を結んで扮装したのですが、時代劇がよく似合っているかも、と思ったんですよ」

このように、自分の適性を見極めていたと自負するチ・ジニ。果たして、それは当たっていただろうか。

(後編に続く)

 

文=康 熙奉(カン ヒボン)

コラム提供:ロコレ
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2016.08.09