「コラム」ペ・ヨンジュン 過去への旅路(第8回)

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第8回 KBS以外のドラマに初主演

 

ケガが回復したあと、しばらく休養をとったペ・ヨンジュンは、10カ月ぶりにドラマの世界に戻ってきた。それが、『裸足の青春』だった。扮したのは、組織暴力団のボスの息子という出生の秘密を持った青年ヨソク。警察大学の学生から組織暴力団の後継ぎまで波乱万丈の青春を演じた。

 

ケガの後遺症

ペ・ヨンジュンはどんな気持ちで『裸足の青春』と向き合っていたのか。1998年2月17日付けの「イルガン・スポーツ」は、当時のペ・ヨンジュンの心情を細かく報じている。

そのインタビューの発言を引用してみよう。

……「初恋」のときよりも、相当やせたようですね。

「ドラマで演じたヨソクの性格に合うように、5キロ減量しました。いつもは77・5キロの体重が72キロになりました」

……カメラの前に立つことが久しぶりでしたが違和感は?

「初めはカメラレンズだけでなく、その周辺も視野に入らないほど違和感がありました。それでも、うまく転じるのも才能の一つだと思いますし、今では昔の感覚を取り戻していますよ」

……足首がまだ完全ではないとのことですが、野外撮影に支障はありませんか?

「足蹴りなどのアクションシーンは簡単ではありませんが、代役なしですべて消化しました。特に、走る列車に飛び乗る場面では、監督が代役を使おうと言ってくださいましたが、現実感を出すために直接走りました。40~50メートルほどの距離を3回ほど走りましたが、ケガの後遺症からか、かなり痛みを感じましたね」

 

演出陣との不仲説

……継続してKBSのドラマに出演していますが、最近「脱KBS」宣言をしたと伝えられています。

「KBSで最初の一歩を踏み出したし、KBSで育ちました。これまで、KBSで数多くのドラマに出演してきましたが、あえて移る必要がどこにあるのかと思っていました。しかし、どのみち演技者になるために、放送局が偏っていてはいけないという考えが浮かんできました。今後は良質の作品を優先させる予定です」

……最近演出陣との不仲説が出回っています。もしかしてその影響なのでは。

「ささいな意見の摩擦が不仲説として飛火した模様です。演出者や演技者もみんな、良い作品を制作しようと努力しています。その中で、意見の摩擦が起こることは、十分にありうることだと思っています。外から見るときに不仲として映ったのであれば、それは本当に残念なことです。そして、KBSを離れるという考えがそのためであるという見方があるならば、それに対しても残念としか言いようがありません」

このように、「イルガン・スポーツ」はペ・ヨンジュンのコメントを掲載しているが、ここで気になったのは、「演出陣との不仲説」という部分だ。

韓国社会では、儒教的な長幼の序が重んじられるが、それはドラマの制作現場でも変わらない。年下の者が少しでも意見を言うと、「生意気だ」と受け止められてしまうのだ。けれど、良いドラマを制作しようとすれば、出演者が最善の演技をすると同時に、自分の意見を述べ合うことも大事である。

ペ・ヨンジュンもドラマの出来をよくするために、自分の出演シーンについて意見を言うことがある。

その点では、ペ・ヨンジュンは決して妥協しないタイプなのだ。

 

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KBSから離れたペ・ヨンジュン

ペ・ヨンジュンは妥協しないが、韓国社会ではそれが「年下の者が年上に向かって……」という固定観念で見られて、摩擦を生んでしまうこともある。それは、ペ・ヨンジュンが生意気だからではなく(むしろ、彼は撮影現場でも謙虚にふるまうことでよく知られている)、ドラマの質を上げるために行なったことなのだ。それが曲解されてしまうのは、ペ・ヨンジュンも言及したように残念なことだった。

結局、ペ・ヨンジュンはKBSから離れることになった。

ただし、後味がよくなかった。なぜなら、他の放送局に初めて出ることになったのが、KBS制作ドラマの降番がきっかけになってしまったからだ。

実は、ペ・ヨンジュンは『裸足の青春』の次作として、1998年10月からKBSの『チョンイハク』というドラマに出ることになっていた。

しかし、KBSドラマ局の幹部は「ペ・ヨンジュンが共演者のキャスティングにまで口をはさんでくる」と不快感を示した。これに対し、ペ・ヨンジュン側は「共演者の決定が遅れて心配していただけ」と表明したが、結局は『チョンイハク』への出演をとりやめる決定をした。

彼は、先に紹介したインタビューの中で、「今後は良質の作品を優先させたい」という強い意思を示していたが、その信念に基づいて行動しようとした。それが、結果的にKBSを離れることになった。

 

『愛の群像』に主演

どんな場合にも、ペ・ヨンジュンは精一杯の誠意を見せた。このときの降番劇についても、きちんと謝罪している。

「本当に申し訳ありません。私の責任です」

きちんと謝罪をすれば、それを容認して関係を修復する……そうした寛容さもまた韓国社会の特徴の一つだ。

事実、ペ・ヨンジュンはその3年後にKBSの『冬のソナタ』に出演している。もし、ペ・ヨンジュンとKBSの関係がこじれたままだったら、アジアを熱狂に包んだ傑作ドラマが生まれていなかったかもしれない。

果たして、そんなことが想像できるだろうか。

結局、『裸足の青春』の次回作をめぐって紆余曲折があったが、ペ・ヨンジュンが出演したのはMBCの『愛の群像』だった。KBSで育てられた彼は、初めて他局のドラマで心機一転をはかることになった。

このドラマでペ・ヨンジュンは、魚市場でカニの仲買人として働く一方で、苦学しながら大学に通う学生ジェホを演じた。

ペ・ヨンジュンにとって、演技の多様性に挑む重要な作品となったが、視聴率のうえでは伸び悩み、かならずしも成功とは言えなかった。

けれど、何をもって「成功」「不成功」と判断するかは、厳密には言えない問題だ。それよりも、この『愛の群像』が画期的だったのは、「ウジョンサ」が誕生したことだった。これは、インターネットを中心に、「愛の群像」を愛するファンが集まったものだった。一つのドラマから、熱狂的なファンのグループが大規模に生まれたことは、それまでの韓国にはなかった現象だった。

この「ウジョンサ」は単にドラマを支援しただけでなく、会員が「ジェホのように苦学している若者を助けよう」と決議して具体的にボランティア活動も行なった。また、視聴率の問題で悩み苦しむペ・ヨンジュンを励まし、新たな勇気を与えてくれた。

俳優冥利に尽きる、とはこういうことなのだろう。ペ・ヨンジュンはファンの温かい声援を受けて、俳優であることの幸せを心から感じた。

 

文=康 熙奉(カン ヒボン)

コラム提供:ロコレ
http://syukakusha.com/

2016.05.16